— 01 —販路の拡大ではなく、リブランディングとして報じられている
日経クロストレンドが「線香の日本香堂、グローバル見据えたリブランディング」と題した記事を掲載している。伝えているのは、線香で広く知られる日本香堂が、世界市場を視野に入れてブランドを刷新したという事実だ。同社自身の発表によれば、2025年4月、香十の創業から450年を迎えるのに合わせてCIを改定し、新しいグループスローガンとして「香りと旅する」を掲げている。海外向けには以前から「Tour your heart」というタグラインを定め、グローバルサイトを整えてきた経緯もある。
記事の切り口として注目したいのは、この動きを海外販路の拡大策としてではなく、リブランディングとして位置づけている点だ。どこで売るかの話ではなく、自社をどう名乗るかの話として扱っている。
じつは、用途を使わずに自社を説明するのって、やってみるとけっこう詰まるんですよね。ふだん考えなくても売れているので。個人的には、詰まった時点でもう収穫だと思います。
— 02 —用途で説明できることは、強さであり、同時に範囲でもある
日本国内で線香に説明はいらない。仏壇があり、手を合わせる習慣があり、その用途が製品の意味をほとんど決めてくれる。用途が意味を運んでくれる状態は、それ自体が大きな資産だ。広告で価値を語らなくても、置かれた場所が語ってくれる。
ただし用途は市場ごとに違う。手を合わせる習慣を前提にできない市場では、同じ製品が同じ意味を持たない。ここで道は二つに分かれる。用途ごと輸出して説明を尽くすか、用途の一段上にある価値を言い直すか。「香りと旅する」「Tour your heart」という言葉が選んでいるのは後者だ。線香をつくる会社ではなく、香りで心の状態を扱う会社として名乗り直している。
これは商品を軽んじる作業ではない。むしろ逆で、商品を包む定義を一段引き上げることで、線香もフレグランスも同じ看板の下に置けるようになる。そして450年という時間は、この言い直しを支える根拠になる。長い歴史は「だから変えない」の理由として使われがちだが、実際には言い直す資格として使うほうが強い。積み上げた実績があるからこそ、自分を広く定義しても言葉が浮かないからだ。
— 03 —と、いうことで。
この記事を読んだあとの最初の一歩は、自社の商品を用途名を使わずに一文で説明してみることだ。カテゴリー名も、使用シーンの名前も禁止して書く。線香なら「線香」「仏事」を使わずに書く、という縛りである。30分あれば足りる。
できれば一人でやらず、経営・開発・営業から三人ぶん集めて突き合わせるとよい。書けた文が揃っているなら、それが自社の定義だ。書けない、あるいは三人でばらばらになるなら、いまは用途に寄りかかって成立しているということになる。それ自体は悪いことではないが、用途の通じない市場に出た瞬間に効かなくなる。海外を検討する前に、この一文を先に決めておく。
- 自社の商品を、用途名やカテゴリー名を使わずに一文で説明できるか確かめる
- 海外展開の前に、翻訳する言葉ではなく翻訳しない定義のほうを先に決める
- 積み上げた歴史は、変えない根拠ではなく言い直しの裏づけとして使う