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定義

ブランドアイデンティティ

Brand Identity

ブランドが自ら発信する本質の定義。受け手に結ばれる「イメージ」の対として、発信側が意図する像を指す。

意味

ブランドアイデンティティとは、ブランドが自ら「こう見られたい」と意図して発信する像のことを指す。受け手の中に自然と結ばれるブランドイメージが結果であるのに対し、アイデンティティはその手前にある発信側の設計図にあたる。何を約束し、どんな性格をまとい、どんな言葉と見た目で語るのかを束ねた自己規定である。

重要なのは、アイデンティティとイメージがしばしずれるという点にある。意図した像と受け手が抱く像の差を測り、その隙間を埋めていく営みがブランディングの実務そのものになる。だからこそ、アイデンティティは曖昧な理念ではなく、判断のたびに立ち返れる具体の像として定めておく必要がある。

経営の視点では、アイデンティティは日々の意思決定の共通言語になる。新商品の名づけ、広告の表現、採用の語り口まで、あらゆる選択を「このブランドらしいか」で照らすための基準となり、組織が増えても像がぶれない土台を支える。

成り立ち

アイデンティティ(identity)は「同一であること・その存在らしさ」を意味する語で、ブランド論では発信側が定める自己像を指すようになった。とりわけ、ブランドイメージ(受け手の知覚)との対比で論じる整理は、デイヴィッド・A・アーカーらのブランド研究によって広く知られるようになった。

ブランドアイデンティティとMVVの違い

MVVが向いている先は社内である。組織が何を目指し、どう振る舞うかを定めた規範であり、読み手は社員になる。対してアイデンティティが向いているのは市場で、どう見られたいかを外に向けて定める。掲げた言葉が両者で似通うことは珍しくないが、動かそうとしている対象が違う。片や社員の行動、片や顧客の頭の中の像である。

混同すると、社内でしか通じない言葉がそのまま社外向けの旗印になり、顧客から見て何の会社なのか分からない状態が生まれる。判別したいときは、その一文が社員が明日から何を変えるかを示しているのか、顧客が他社と何で見分けるかを示しているのかを問うとよい。

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ブランドアイデンティティとブランドガイドラインの違い

アイデンティティは何を約束し、どんな性格で語るかという決めごとであり、ブランドガイドラインはその決めごとを他人が再現できる形にした運用の規定である。前者がなければ後者は根拠を欠き、後者がなければ前者は担当者が変わるたびに揺れる。上流と下流の関係にあたる。

判断の前と後、という並びで見ても違いが出る。ガイドラインは目の前の制作物がこれでよいかを照らす道具で、すでに形になった案を検査する側に立つ。一方、ガイドラインに項目のない事態——前例のない企画や想定外の批判——にぶつかったとき、何を手がかりに決めるか——その問いを引き受けるのはアイデンティティの側である。

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使いどころ

ブランドの立ち上げやリブランディングの初期に、まず言語化する対象がアイデンティティである。約束・人格・語り口・見た目の方向を定め、以降の制作物すべての判断基準として使う。よくある誤解は、ロゴやカラーといった見た目の要素だけをアイデンティティと捉えてしまうことで、実際にはそれらを規定する上流の考え方までを含む点に注意したい。

実務でのチェックポイント

  • 定めた一文を反転させ、その逆を掲げる会社が世の中に実在しうるか考えてみる。逆が誰にも選ばれない主張なら、その一文はどの会社でも書ける水準にとどまっている。
  • 却下した企画があるなら、その理由をアイデンティティの一文だけで語り直してみる。語り直せず、予算や工数の話に落ちるなら、その一文は判断の場に出てきていない。
  • 社員数人に、自社が顧客に何を約束しているかを一文で書いてもらう。言い回しの差は構わないが、約束の対象が人によって違うなら共有されていない。
  • 掲げた性格が、価格表や契約条件、断り方といった地味な接点にも表れているかを確かめる。表現物の中だけに宿っているなら、像はまだ薄い。

よくある誤解

こう見られたいと書く場所であるがゆえに、実態から離れた願望が入り込みやすい。まだ備わっていない強みを掲げると、接点ごとに小さな食い違いが生まれ、受け手はその差のほうを覚えてしまう。どこまで背伸びを許すかは、掲げた像を裏づける行動を明日から実際に始められるかどうかで線を引くことになる。

独自性を追ううちに、他社が言っていないという一点だけで言葉を選んでしまうことがある。誰も名乗っていない像は、裏を返せば誰も欲しがらなかった像でもある。違いの有無と同時に、その像に惹かれる相手が現実にいるかを問わなければ、独自ではあるが席の空いたままの自己規定ができあがる。まず誰の期待に触れる像かを置き、独自性の判定はその後に来る。

よくある質問

ブランドアイデンティティは一度決めたら変えないほうがよいですか?

変えてよいが、変える層を分けて考える必要がある。約束の核にあたる部分は、動かすたびに受け手が覚え直すことになるため簡単には変えにくい。一方で語り口や見せ方は、相手や時代に合わせて更新されていく。核を保ったまま表層を入れ替えるのが通常の姿になる。

小さな会社でも言語化する意味はありますか?

人数が少ないほど早く効く。創業者の頭の中にある基準は、本人がすべての判断に関われるうちは共有されなくても回るが、二人目、三人目に任せた瞬間にばらつきが出る。言語化は、その最初の引き継ぎのために行う作業だと捉えると位置づけがはっきりする。早く書くほど、早く効く類の作業になる。

アイデンティティとコンセプトは同じものですか?

別物として扱うほうが実務は動く。コンセプトは商品や施策など個別の対象に付く考え方で、対象ごとに複数あってよい。アイデンティティはブランド全体に一つあり、個別のコンセプトが逸脱していないかを照らす側に立つ。数の扱いが違うと考えると見分けやすい。

参考文献

David A. Aaker(1996) Building Strong Brands
この項目は、ブランディング支援会社 Highlite Inc. 編集部が執筆・監修しています。
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