ポジショニング
市場と顧客の心の中で占める独自の席。競合との違いと、顧客にとっての意味の二軸で設計される。
意味
ポジショニングとは、市場と顧客の心の中で、ブランドが占める独自の席を定めることである。競合との違いと、顧客にとっての意味という二つの軸で設計される。
同じカテゴリに多くの選択肢がある中で、「どんなときに、なぜこのブランドか」を明確にするのがポジショニングの役割である。すべてに応えようとするのではなく、占める位置を絞る発想に立つ。
重要なのは、企業が主張したい位置と、顧客の頭の中で実際に占められる位置が一致するかどうかである。心の中に確かな席を得て初めて、ポジショニングは成立する。
成り立ち
positioning は「位置づけ」を意味する語で、position(位置)を動詞化した名詞である。市場という空間の中で自らの居場所を定める、という比喩を核にしている。
この概念は、Al Ries と Jack Trout が1970年代から1980年代にかけて広めたことで知られ、「顧客の心の中の位置」を争点として捉える見方を定着させた。
ポジショニングと差別化の違い
差別化は、仕様や価格や製法のどこが他社と違うかを送り手が示す作業である。ポジショニングで問われるのは、その違いが買い手の記憶に居場所を得たかで、判定するのは相手の頭の中にある。違いは資料に書けば存在するが、席は空けてもらわなければ手に入らない。作った側の主張と、受け取った側の認識という順に並ぶ。
順序で言えば差別化が手前にあるが、違いを増やしていけば位置が定まるわけではない。違いが多いほど、顧客はどの言葉で覚えればよいのか分からなくなる。何で違うかを列挙する作業と、何として覚えられたいかを一つに絞る作業は、方向が逆になる。位置を定める側の作業は、増やすのではなく削るほうに寄る。
差別化の項へ →ポジショニングとポジショニングマップの違い
ポジショニングマップは検討のための道具で、二つの軸を引いて自社と競合を置いた図にすぎない。ポジショニングは、その検討の結果として顧客の中に実際に成立した位置を指す。図の上で空いている場所を見つけたことと、そこに席を得たことは、まったく別の話になる。
使い分けの目安は、軸を誰が選んだかにある。マップの軸は作り手が選ぶため、自社の強みが目立つ軸を無自覚に引いてしまいやすい。顧客が実際に比較で使っている軸と、図に引いた軸が同じかどうかを確かめないと、図の中でだけ独自に見える状態が生まれる。軸を疑う手間を省くと、図は自社に都合よく歪む。
ポジショニングマップの項へ →使いどころ
ポジショニングは、セグメンテーションとターゲティングを経て、狙う相手の心にどう位置づくかを定める段階で用いられる。誰に、どんな独自の意味で選ばれるかを言葉にする。
USPやブランドプロミスと結び付けると、独自の位置を具体的な強みや約束へと落とし込みやすくなる。
実務でのチェックポイント
- 直近の商談で相見積もりに並んだ社名を、思い出せる限り書き出す。想定していた競合と顔ぶれが違えば、顧客が立っている土俵は自社の見立てとは別の場所にある。
- なぜ他社ではなく自社を選んだのかを既存顧客の言葉のまま集め、自社が掲げる独自性と同じ言葉が出てくるかを確かめる。自社の言い方に直さず、そのまま並べるのが要点になる。
- 自社の説明文から社名を外し、競合の説明文と混ぜて社内の人に見せる。どれが自社か判別できないなら、位置は言葉の上でもまだ取れていない。
- 狙う位置を保つために諦めている顧客層や機能を一つ挙げてみる。何も諦めていないなら、まだ全方位に応えようとしている段階にある。
よくある誤解
空白地帯を見つければ勝てる、という読み方が最も起きやすい。誰も置かれていない場所は、過去に誰かが試して引き上げた場所か、そもそも求める人がいない場所であることがある。なぜ空いているのかを先に説明できないうちは、独自の位置ではなく単に人の来ない位置を選んでいる可能性が残る。空いている理由を説明できることが、そのまま位置の説得力になる。
もう一つは、位置は言葉づかいで動かせるという前提である。打ち出す文言を変えても、価格帯、置かれている売り場、実際に買っている人の顔ぶれが以前のままなら、受け手が参照する材料は何も変わらない。位置を動かすとは、こうした周辺の条件のどれかを実際に動かすことでもある。文言はその後に整える対象になる。
よくある質問
ポジショニングは一度決めたら変えられませんか?
変えられるが、動かすには時間と一貫した接点の積み重ねが要る。受け手はすでに覚えた位置を基準に新しい情報を解釈するため、宣言しただけでは上書きされない。変えると決めたなら、価格や売り場、引き受ける仕事の選び方まで含めて、新しい位置を裏づける材料を揃えることになる。
競合と同じ位置を狙ってはいけませんか?
避けたほうが無難だが、絶対の禁則ではない。同じ位置に並ぶと比較の軸が価格や条件に寄りやすく、体力のあるほうが有利になる。同じ土俵に立つなら、買いやすさや供給の届く範囲など、頭の中の像以外の場所で優位をつくれるかを先に確かめる必要がある。像の勝負を避けるという判断も、そこには含まれる。
BtoBでもポジショニングは必要ですか?
必要になる。検討する人数が多く時間も長い分、社内で誰かが自社を要約して他の人に伝える場面が必ず生まれる。そのときに使われる短い一言が、実質的な位置として働く。伝言に耐える形まで絞れていないと、伝わる途中で説明が落ち、価格の比較に収束しやすくなる。