メンタルアベイラビリティ
買う場面で思い出されやすさ。多くの想起の手がかり(CEP)と結びつくほど、選択肢に上がりやすくなる。
意味
メンタルアベイラビリティとは、顧客が何かを買おうとする場面で、そのブランドがどれだけ思い出されやすいかを表す概念である。頭の中での「想起されやすさ」を、買われやすさの一方の柱として捉える。
この想起は、買う場面の手がかり(カテゴリーエントリーポイント、CEP)とどれだけ多く結びついているかによって左右される。特定の状況・欲求・時間帯といった多様な入口からブランドが呼び起こされるほど、選択肢に上がる機会は増える。
実際に手に取りやすいかを示すフィジカルアベイラビリティと対をなす概念で、この二つが揃ってはじめて選ばれやすさが成り立つ、という見方で用いられる。
成り立ち
メンタルアベイラビリティは、南オーストラリア大学のエーレンバーグ・バス研究所(Ehrenberg-Bass Institute)と、同研究所のバイロン・シャープ(Byron Sharp)によるブランド成長研究のなかで提唱・普及した概念である。数多くの市場データの分析から、ブランドの成長を「想起されやすさ」と「手に入りやすさ」の両面から説明する枠組みとして示された。
メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの違い
メンタルアベイラビリティが扱うのは思い出されるかどうか、フィジカルアベイラビリティが扱うのは手が届くかどうかである。両者は足し算ではなく掛け算で効くため、片方が欠けたままではもう片方への投資も回収されない。頭に浮かんでも買える棚がなければ、その想起は隣の商品の売上になる。
どちらが足りないかは、症状の出方で見分けられる。名前は挙がるのに買われていないなら流通や在庫の側に、置かれているのに手に取られないなら想起の側に原因がある。売上が伸びない理由をどちらか一方に決め打ちすると、打ち手はまるごと空振りする。
フィジカルアベイラビリティの項へ →メンタルアベイラビリティとブランド認知の違い
認知が測るのは名前を知っているという状態であり、メンタルアベイラビリティが測るのは、買う場面でその名前が実際に浮かぶかである。知っていても、夜食を探している場面や来客の手土産を選ぶ場面と結びついていなければ、候補には並ばない。知識の量と、呼び出される回数は別々に動く。
測り方にも差が出る。認知は名前を挙げて知っているかを尋ねれば分かるが、想起されやすさは場面を先に示し、そこから何が浮かぶかを尋ねないと見えてこない。質問の順序を入れ替えるだけで、同じブランドの評価は大きく変わることになる。
ブランド認知の項へ →使いどころ
「メンタルアベイラビリティを高める」といった形で、想起の間口を広げる施策を議論する場面で用いられる。特定の一言だけでなく、多くの購買文脈と結びつくことを目指すべきだ、という主張の根拠として参照されることが多い。
実務でのチェックポイント
- 自社の商品が使われる場面を、思いつく限り紙に書き出す。その一覧に、これまでの販促で実際に扱った場面へ印をつけていく。印のない行が、想起の入口として空いたままの場面にあたる。
- 顧客に、どんなときに自社を思い出したかを購入直後に尋ねる。想定していた場面と違うなら、押さえるべき入口は別にある。
- 過去一年の広告や投稿を並べ、扱っている使用場面が同じものに偏っていないかを見る。偏りは入口の少なさとして表れる。
- 競合が押さえている場面のうち、自社がまだ一度も触れていないものを挙げる。空いている入口はたいていそこにある。
よくある誤解
想起されやすさを高める作業を、露出量を増やすことと同一視しやすい。同じ場面と結びついた露出をいくら重ねても、結びつく入口の数そのものは増えない。増やすべきなのは接触の回数ではなく思い出される場面の種類であり、どの場面をまだ押さえていないかを洗い出す作業が先に来る。
一言のスローガンで覚えられれば十分だという扱いも起きる。強い一言は覚えやすいが、その一言が対応する場面はたいてい一つしかない。想起の入口を増やす発想とは方向が逆になるため、いま絞る作業をしているのか広げる作業をしているのかを混同しないことになる。
よくある質問
メンタルアベイラビリティは認知率で測れますか?
認知率だけでは足りない。名前を知っている人の割合は分かっても、買う場面で浮かぶかどうかは分からない。場面を先に提示し、そこから思い浮かぶブランドを挙げてもらう形の質問を重ね、いくつの場面で名前が出てくるかを見るほうが実態に近づく。
想起の入口はどのくらい増やせばよいですか?
上限を決めるより、まだ一つも押さえていない場面を潰す順で考える。すでに強い入口をさらに強めるより、名前がまったく挙がらない場面を一つ埋めるほうが、候補に上がる機会は増えやすい。手薄な場面から順に当たっていく形になる。
小さなブランドでも取り組む意味はありますか?
意味はあるが、広げる前に絞る判断が先に来る。使える露出が限られるほど、押さえる場面を選ばざるを得ない。すべての入口を狙うと、どの場面でも中途半端な結びつきしか残らない。まず一つの場面で確実に浮かぶ状態をつくり、そこから広げる順序になる。