フィジカルアベイラビリティ
買おうとしたとき、実際にどれだけ手に取りやすいか。想起(メンタル)と対で、買われやすさを支える。
意味
フィジカルアベイラビリティとは、顧客が買おうとしたときに、実際にどれだけ手に取りやすいかを表す考え方である。店頭での取り扱い、在庫、買える場所や機会の多さなどが含まれる。
どれだけ思い出してもらえても、いざ買おうとしたときに手が届かなければ購入は成立しない。フィジカルアベイラビリティは、この「買いやすさ」の側面に光を当てる。
頭の中での思い出されやすさを指すメンタルアベイラビリティと対をなし、両者が揃って初めてブランドは選ばれやすくなる、という捉え方で語られる。
成り立ち
physical availability は直訳すれば「物理的な入手しやすさ」であり、心の中の想起(mental)と対比させるために用いられた表現である。
Byron Sharp を中心とする Ehrenberg-Bass 研究所が、メンタルアベイラビリティと対の概念として「買いやすさ」を論じ、両者を揃えることの重要性を示したことで知られる。
フィジカルアベイラビリティとメンタルアベイラビリティの違い
棚の前に立つ前に名前が浮かんでいるかを問うのがメンタルアベイラビリティ、浮かんだ名前に手が伸ばせるかを問うのがフィジカルアベイラビリティである。前者は記憶の側、後者は流通の側にある条件で、どちらかが欠けたまま片方だけを厚くしても、支出は買物かごの中身に変わらない。
買われなかった理由を一段だけ遡ると、二つの型に割れる。候補として名前すら挙がらなかった場合と、名前は挙がったのに売り場に無かった、あるいは配送に間に合わなかった場合である。前者に効くのは想起される場面を増やすことで、後者に要るのは取扱店や在庫の手当てであり、片方の処方をもう片方に当てても効かない。
メンタルアベイラビリティの項へ →フィジカルアベイラビリティとオムニチャネルの違い
オムニチャネルは、複数の経路をつなげて一つの体験として扱う設計の考え方である。フィジカルアベイラビリティは、そもそも買える機会がどれだけ広く用意されているかという状態を指す。設計の思想と、結果として得られている広さの違いになる。
経路をつないでも、扱われている場所が少なければ買いやすさは増えない。逆に扱いが広くても、経路ごとに在庫や価格が食い違えば途中で断念される。広げる作業とつなぐ作業は別々に進むため、どちらが足りていないかは、離脱が起きた場所を見ると絞りやすい。
オムニチャネルの項へ →使いどころ
フィジカルアベイラビリティは、配荷や販路、購入導線の設計を見直す際の視点として使われる。認知施策だけでなく「買える状態」を整えているかを問う。
メンタルアベイラビリティやカテゴリーエントリーポイントと併せて考えると、想起と入手の両輪でブランドの成長を捉えやすくなる。
実務でのチェックポイント
- 自社の商品を初めて買う人の経路を辿り、注文までに何回の操作と判断が要るかを数える。多いほど、途中で離れる余地が増える。
- 在庫切れや取り扱い終了の状態が、どれだけの期間続いているかを把握する。把握していないなら、失った機会も見えていない。
- 顧客が買おうと思った場面を聞き取り、そのとき最も近くにあった経路が自社の経路だったかを確かめる。
- 自社サイト、量販店、通販の各経路で価格と届くまでの日数を一枚に書き出す。経路ごとに答えが違えば、買い手はどれが本当かを調べ直す手間を負い、その途中で買物をやめる。
よくある誤解
買いやすさは流通の担当が扱う話で、ブランドの議論とは別だ、という切り分けがよく起きる。だが探す手間の大きさは、そのまま選ばれる確率に効く。どれだけ像を積み上げても、いざ買おうとした場面で二手間かかれば、その場にある別の名前が選ばれる。像への投資が実を結ぶ場所は、買える状態の側にある。
置いてある数を増やせばよい、という理解も途中で止まりやすい。効くのは総数ではなく、その相手が買おうとする場面に居合わせているかどうかである。使われる時間帯や状況が偏っている商品では、数を広げるより、その場面に近い経路へ置くほうが効く。広さと近さは、別の物差しになる。
よくある質問
フィジカルアベイラビリティはサービス業にも当てはまりますか?
当てはまる。手に取る商品が無くても、申し込める時間帯、問い合わせの経路、対応できる範囲などが同じ役割を果たす。買おうと思った瞬間にそれを受け止められる仕組みがあるかという問いは、形のある商品かどうかに関わらず成立する。
認知を広げるのと売り場を増やすのは、どちらが先ですか?
どちらかを先に完了させるという順序では考えにくい。思い出されないまま置き場所だけ増やせば在庫の負担が先に出るし、買える場所が無いまま知られれば、探した人を取りこぼす。狙う場面を一つ決め、その場面に対して両方を同時に満たすほうが無駄が少ない。
どこまで販路を広げるべきですか?
広げるほど有利になるとは限らない。扱う場所によっては価格や見せ方が像と食い違い、届く範囲と引き換えに期待が崩れる。狙う層が買おうとする場面に居合わせているかを基準にすると、広げる先と見送る先の判断がつけやすくなる。