ジョブ理論
顧客は製品でなく「片づけたい用事」を雇うとする考え。何のために選ばれるかを、機能でなく目的で捉え直す。
意味
ジョブ理論は、顧客は製品そのものを欲しているのではなく、片づけたい「用事(ジョブ)」を進めるために製品を雇っている、と捉える考え方である。「顧客は用事を片づけるために製品を雇う」という見立てが、その核を端的に表す。
この視点では、選ばれる理由を機能の優劣ではなく、顧客が達成したい目的の側から捉え直す。同じ製品でも、状況が変われば雇われる用事が変わり、競合の範囲も機能の近さではなく用事の近さで引き直される。
何のために選ばれているのかを問うことで、表面の属性に隠れた本当の動機が見えてくる。属性を足し続ける発想から、顧客の進めたい前進を助ける発想へと、価値の捉え方を切り替える枠組みである。
成り立ち
Clayton M. Christensen らが提唱し、広く普及させた考え方である。「顧客は用事を片づけるために製品を雇う」という言い回しで知られ、製品中心ではなく顧客の目的中心に市場を捉え直す視点として整理された。
ジョブ理論とニーズの違い
ニーズは、顧客が満たしたい状態そのものを指し、ジョブは、その状態へ進むために片づけたい具体的な用事を指す。前者は抽象度が高く、聞き取れば言葉として返ってくる。後者は状況とセットで初めて姿を現す。
両者を見分ける手がかりは、状況の記述があるかどうかに尽きる。何時ごろか、誰と一緒にいるのか、その直前に何が起きたのか。こうした条件を欠いた記述は、用事ではなく望みの列挙にとどまる。同じ人でも場面が移れば雇う相手は入れ替わる。この前提が文に織り込めていれば、ジョブとして書けている。
ニーズの項へ →ジョブ理論とベネフィットの違い
ベネフィットは、提供する側が示す「これを使うとこうなる」という便益であり、ジョブは顧客の側にもとからある用事である。前者は商品に紐づいて生まれ、後者は商品がなくても存在している。どちら側の話かで立場が違う。
この違いは、競合の引き方に表れる。便益で考えると、似た便益を掲げる商品が競合になる。用事で考えると、その用事を別の手段で片づけている行為すべてが競合になる。何もしないという選択が競合に含まれるのは、後者の見方だけである。
ベネフィットの項へ →使いどころ
新しい価値や差別化の手がかりを探すとき、機能比較の外側から発想したい場面で用いられる。顧客がどんな状況で何を前へ進めたいのかを捉えることで、ポジショニングやコンセプトの起点を機能の外に置ける。
実務では、顧客が製品を雇う「状況」を丁寧に描くことが出発点になる。狙う相手を絞るセグメンテーションやポジショニングと結びつけると、誰のどの用事に応えるのかが明確になる。
実務でのチェックポイント
- 直近の顧客に、購入の前に何を試して諦めたかを尋ねる。挙がった手段が、機能の似ていない相手なら競合の範囲が想定より広い。
- 自社が捉えている用事の記述に、いつ・どこで・誰といった状況が入っているかを確かめる。入っていないなら望みの言い換えにとどまっている。
- 解約や離反の理由を、用事が消えたのか、別の手段で片づけられたのかに仕分ける。前者と後者では打ち手がまったく別になる。
- その用事の記述を根拠に、開発しないと決めた機能を一つ挙げてみる。挙げられないなら、判断を絞る道具として働いていない。
よくある誤解
顧客に「何のために使っていますか」と尋ねれば用事が分かる、と考えられやすい。だが答えは多くの場合、商品の説明をなぞった言葉で返ってくる。手がかりになるのは、実際にどんな場面で使い始め、その前に何を試して諦めたかという経緯のほうで、聞き方を変えないと同じ答えしか集まらない。
用事を捉えれば新しい発想が出る、という期待だけで用いられることもある。だが用事の記述が広すぎると、どの商品にも当てはまる説明になり、判断を絞れない。使えるかどうかは、その記述を根拠に何をつくらないと決められるかで確かめられる。絞れない記述は、視点を変えた言い換えに終わる。
よくある質問
ジョブ理論はBtoBでも使えますか?
使えるが、用事の持ち主を分けておく必要がある。現場の担当者が片づけたい用事と、承認する立場の人が片づけたい用事は別で、後者には社内で説明が立つかという条件が含まれる。両方を一つの記述に混ぜると、どちらにも刺さらない説明になりやすい。
ジョブはどうやって見つけますか?
意見を尋ねるより、行動の経緯を辿るほうが手がかりが多い。使い始めた時期、その直前に起きた出来事、以前どう間に合わせていたかを順に確かめると、状況の輪郭が見えてくる。答えではなく出来事を集める聞き方に切り替えるのが出発点になる。
一つの商品に用事は一つですか?
複数あってよいが、束ねずに分けて扱うほうが判断は進む。同じ商品でも、使う場面が違えば雇われている理由は変わり、伝えるべき言葉も変わる。まとめて一つに要約すると、どの場面の相手にも半端に届く説明になるため、場面ごとに分けたまま持っておく。