ブランド構築力
一貫した価値と像を積み上げ、識別と信頼を育てていく組織の力。デザイン経営が高めるべき力の一つとされる。
意味
ブランド構築力とは、提供する価値やブランドの像を一貫して積み上げ、識別されやすさと信頼を育てていく組織の能力を指す。個々の施策の巧拙ではなく、時間をかけて像をぶらさず育てる力として捉えられる。
この力は、日々の判断がブランドの方向にそろっているかどうかに支えられる。表現や体験の細部が一貫していることで、受け手の中に安定した像が結ばれていく。
成り立ち
ブランド構築力は、デザイン経営宣言においてデザインが高めるべき力の一つとして挙げられた。もう一方のイノベーション力とあわせ、デザイン経営が目指す成果として整理されている。
ブランド構築力とブランドエクイティの違い
ブランドエクイティは積み上がった結果としての資産であり、ブランド構築力はそれを積み上げる側の力である。原因と結果の関係にあり、資産が厚い企業がいまも構築力を保っているとは限らない。過去の蓄積で保っているのか、いま積める状態なのかは別々に見る。
見分けの手がかりは、時間の向きにある。エクイティは過去の接点が残した結果を測る言葉で、構築力はこれから先の接点をそろえられるかを問う言葉である。資産が目減りし始めた組織では、たいてい結果が現れる前に力の側が先に落ちている。
ブランドエクイティの項へ →ブランド構築力とイノベーション力の違い
イノベーション力は新しい価値を生む方向の力で、ブランド構築力はすでに約束したことをぶらさず積む方向の力である。前者は変えることで、後者は変えないことで効く。同じデザインの取り組みでも、どちらを狙っているかで評価する物差しが逆になる。
両立が難しく見えるのは、同じ判断の場で両方を求めるからである。新しさは個別の商品や体験の層で試し、一貫性は約束と語り口の層で守るというように層を分けると衝突は減る。どの層で新しくするのかを決めないまま議論すると、刷新も一貫も中途半端になる。
イノベーション力の項へ →使いどころ
「ブランド構築力を高めるためにデザインを経営に組み込む」のように、デザイン経営の狙いを語る文脈で用いられる。イノベーション力と対で語られることが多い。
実務でのチェックポイント
- 三年前と今の自社の説明文を並べ、約束の中身が同じかを確かめる。言い回しではなく、何を引き受けると言っているかを見る。
- 担当者が交代した接点を挙げ、交代の前後で表現や応対が変わっていないかを見る。人に依存しているなら力は組織に宿っていない。
- 現場が判断に迷ったときに誰へ聞くかを尋ねる。特定の個人の名前しか出ないなら、基準がまだ言葉になっていない。
- 今期の施策のうち、来期以降も同じ約束を繰り返すものがどれかを仕分ける。単発しかないなら積み上がる構造になっていない。
よくある誤解
制作物の質を上げれば構築力が高まる、と読み替えられやすい。だが像を積み上げるのは、表現の巧拙よりも、判断が長期にわたって同じ方向を向いているかである。担当者や委託先が変わるたびに軸が動く組織は、一つひとつの制作物が優れていても像が定まらない。力の所在は、作る側ではなく決める側にある。
もう一つは、経営が掲げれば備わるという扱いである。構築力は日々の細かな判断に宿るため、現場が迷ったときに参照できる基準がなければ働かない。方針を打ち出した後に、価格の付け方や断り方といった地味な場面まで基準が届いているかを確かめないと、掲げた時点で終わってしまう。
よくある質問
ブランド構築力は測れますか?
単一の数値にはならないが、ばらつきの小ささで近似できる。同じ問いを複数の接点に投げたときの答えのそろい方、担当者ごとの断り方の差、年次をまたいだ説明文の一致度といった観察から見当がつく。そろっているほど、力は個人ではなく組織の側にある。
イノベーション力とどちらを先に高めるべきですか?
事業の状態で決まる。まだ何の会社か覚えられていない段階では構築力が先に効き、覚えられているが選ばれる理由が古びている段階では革新の側が要る。どちらが不足かは、名前を知られているのに選ばれないか、そもそも候補に挙がらないかで見当がつく。
小規模でも構築力は身につきますか?
人数が少ないほどそろえやすい。判断に関わる人が限られていれば、軸のずれが生じる余地も小さい。むしろ難しくなるのは、任せる相手が増え、創業者が全ての判断に関われなくなる時期である。その手前で基準を言葉にしておくかどうかで差が出る。