イノベーション力
利用者起点で新しい価値や解決を生み出す組織の力。デザイン経営が高めるべきもう一方の力とされる。
意味
イノベーション力とは、利用者や社会の課題を起点に、これまでにない価値や解決を生み出していく組織の能力を指す。デザインの持つ観察と試作の姿勢が、この力を後押しすると考えられている。
ここでの革新は、技術の飛躍だけを意味しない。人の実際の困りごとに寄り添い、体験として届くかたちに落とし込む過程そのものが、価値を生む力として捉えられる。
成り立ち
イノベーション力は、デザイン経営宣言においてブランド構築力と並ぶもう一方の力として位置づけられた。デザインが新しい価値創出に寄与するという見方が背景にある。
イノベーション力とデザイン思考経営の違い
デザイン思考経営が語るのは進め方であり、イノベーション力が語るのは、その進め方を続けた先に組織へ残る能力のほうである。観察と試作の手順を型として導入しても、出てきた案を通す決裁や、外した試作を許容する余地がなければ、力としては積み上がらない。手順の有無と、力の有無は、同じ問いの答えにならない。
見分けたいときは、何が変わったかを問う。会議の進め方や資料の形式だけが変わったなら手順の導入に留まっている。これまで社内で通らなかった種類の案が通るようになって初めて、力の側が動いたと言える。
デザイン思考経営の項へ →イノベーション力とブランド構築力の違い
両者は方向が逆の力として置かれる。ブランド構築力は約束を変えずに積むことで効き、イノベーション力は前提を疑って変えることで効く。同じ組織が両方を求められるため、どちらの理屈で判断するかを場面ごとに決めておかないと議論が噛み合わない。
切り分けの軸は、何を守り何を動かすかにある。約束の核を動かさずに、それを果たす手段を新しくするなら両立する。逆に核ごと入れ替えるなら、それは革新ではなく像の定義し直しの話になり、扱う議論の場所も判断する人も変わる。
ブランド構築力の項へ →使いどころ
「デザインを通じてイノベーション力を高める」のように、デザイン経営の成果を語る文脈で用いられる。ブランド構築力と両輪で語られることが多い。
実務でのチェックポイント
- 直近一年で、当初の企画から狙う相手が変わった案件があるかを挙げる。全て計画通りなら、学びが判断に反映されていない。
- 新しい案を止める権限が誰にあるかを確かめる。一人の判断で止まる構造なら、その人の関心の外にある案は育たない。
- 見送った案件の検討記録が残っているかを見る。残っていないなら、同じ検証が別の担当者によって繰り返されている。
- 利用者に直接会った回数を、企画に関わる人ごとに数える。ゼロの人が意思決定側に多いなら、起点は社内に寄っている。
よくある誤解
新規事業の件数や出願の数で測れると考えられやすい。だが数が増えても、既存の延長にある案ばかりであれば前提は動いていない。測るなら、社内で最初に否定された案がどれだけ生き残ったか、当初の計画から狙う相手が変わった案がどれだけあったかといった質の側を見ることになる。
もう一つは、革新を技術の話に閉じてしまう誤りである。同じ技術でも、誰のどの困りごとに当てるかを変えるだけで受け取られ方は変わる。技術の側だけで議論が完結している組織は、作れるものの幅は広がっても、届けられるものの幅は広がりにくい。当てる先を変える議論を別に持つ必要がある。
よくある質問
イノベーション力はどうすれば高まりますか?
試せる回数を増やすことが最も直接に効く。一件あたりの検証を軽くし、否定された案でも小さく確かめられる経路を用意すると、前提を疑う機会そのものが増える。発想法を学ぶよりも、試す前に必要な承認の数を減らすほうが変化は早く出る。
デザインとイノベーションはどう関係しますか?
デザインは、抽象的な着想を人が触れられる形に落とす役割で関わる。形になれば良し悪しを他人が判断でき、議論が具体になる。言葉のままでは賛否が分かれ続ける案も、試作を挟むと判断が進む。革新の速度は、この形にする速さに左右される。
既存事業でもイノベーション力は必要ですか?
必要になる。既存事業ほど手順が固まり、なぜそうしているかが問われなくなる。前提が古びていることに気づく力は、新規の場面よりむしろ既存の場面で失われやすい。改善と革新の違いは、手順を良くするか、手順の必要性を疑うかにある。