実験思考
答えを先に断定せず、仮説を小さく試して学び、結果に応じて方向を調整していこうとする態度のこと。
意味
実験思考とは、はじめから正解を決めつけず、仮説を小さく試して結果から学び、方向を調整していく態度を指す。失敗を避けるべきものではなく、学びを得るための検証の一部として捉える点に特徴がある。
大きく賭ける前に小さく確かめるため、間違いのコストを抑えられる。確実性の低い状況で前に進むための構えであり、試作や検証を繰り返すデザインの進め方とも親和性が高い。
成り立ち
科学における実験(仮説を立てて検証し学ぶ営み)の考え方を、事業やサービスづくりの意思決定に応用した態度を指す言い回しとして用いられる。
実験思考とリーンスタートアップの違い
リーンスタートアップは、事業を立ち上げるための具体的な手順として組まれた手法であり、実験思考はその手順を支える構えのほうを指す。手法を導入しなくても構えは持てるし、手順だけをなぞって構えが伴わない状態もありうる。方法と態度の関係にある。
見分けたいときは、想定と違う結果が出たときの扱いを見るとよい。手法として運用しているだけの組織では、それは計画の失敗として処理される。構えが根づいていれば、同じ結果が次の判断を変える材料として扱われる。結果の後始末に差が出る。
リーンスタートアップの項へ →実験思考とデータドリブンの違い
データドリブンは、判断の根拠を集めた数値に置く姿勢である。実験思考は、根拠がまだ存在しない場面で、それを自分で作りに行く構えを指す。前者は手元にある材料の使い方に、後者は材料の生み出し方に関わる。既存の数値では答えの出ない問いに向き合うとき、後者が要る。
取り違えると、データが揃うまで判断を先送りする状態が続く。前例のない取り組みほど参照できる数値は乏しく、待っていても現れない。小さく試して自分たちの数値を作る動きが、そのまま次の判断材料になるという順序で捉える必要がある。
データドリブンの項へ →使いどころ
先行きが読みにくい新規の取り組みで、大規模な投資の前に小さな検証を積む場面で重視される。仮説と検証を回す文化づくりの土台にもなる。
実務でのチェックポイント
- 直近に始めた施策について、何が起きたら成功で、何が起きたら取り下げるかを事前に決めていたか確かめる。決めていないなら検証ではなく実施になっている。
- 終わった取り組みの振り返りに、想定と違った点が記録されているか見る。良かった点だけが並ぶなら、学びを取り出す仕組みが働いていない。
- 試すまでにかかった日数を数える。承認の工程が長いほど試す回数は減り、一回あたりの賭けが重くなって、外せない空気が生まれる。
- 途中で取り下げた取り組みが直近にあるかを見る。すべてが完遂されているなら、始める判断が慎重すぎるか、やめる判断ができていない。
よくある誤解
失敗を許容する文化という言い方で受け取られ、結果の振り返りが緩くなることがある。学びを得るための検証と、単に上手くいかなかった取り組みは別で、前者には何を確かめたかったのかという問いが先にある。仮説のないまま始めた施策は、外れても何が分かったかを言えない。
小さく試すという原則が、規模を小さくすることだけに置き換えられる誤りもある。縮めた結果、確かめたかった条件が再現されない試験になっていれば、得られた結果は本番の予測にならない。何を削って何を残すかは、検証したい問いの側から決まる。
よくある質問
実験思考はどんな場面に向きませんか?
やり直しの効かない領域には向かない。安全に関わる判断や、法令上の要件、一度失えば取り戻せない信用が絡む場面では、試して学ぶ前提そのものが成り立たない。試せる範囲と試してはいけない範囲を先に線引きしておくことが、この構えを実務で使う条件になる。
実験と単なる思いつきの実施はどう違いますか?
事前に仮説と判定の基準があるかで分かれる。実験には、何が起きればその考えが正しいと言えるのかという取り決めが先にあり、結果はその基準に照らして読まれる。基準がなければ、どんな結果が出ても後から都合よく解釈でき、次の判断は変わらない。
小さく試すと成果も小さくなりませんか?
一回あたりの成果は小さいが、狙いは別のところにある。小さく試す目的は成果を上げることではなく、どこに賭けるべきかを見極めることにある。見極めた後に資源を集中させる前提が抜けると、小さな試行が並ぶだけで大きな成果に結びつかなくなる。