デザイン思考
利用者への共感を起点に、観察・発想・試作・検証を反復しながら課題の解決策を導いていく思考法。
意味
デザイン思考とは、デザイナーの発想や進め方を、製品やサービスに限らず事業や組織の課題解決へ応用しようとする思考の枠組みを指す。利用者を深く観察して共感し、そこから問いを立て直し、手を動かして試作と検証を繰り返す点に特徴がある。
正解を先に定めて計画通りに進めるのではなく、小さくつくって試し、学びながら方向を調整していく点で、分析中心の進め方とは異なる。曖昧で答えの見えにくい課題に向き合うときの態度と手順を束ねた総称として使われる。
成り立ち
デザインの発想法を経営や社会課題へ広げる考え方として整理され、デザインコンサルティング企業IDEOやスタンフォード大学のd.school(Hasso Plattner Institute of Design)を通じて普及した。IDEOのティム・ブラウンによる論考も広く参照される。
デザイン思考と人間中心設計の違い
人間中心設計は使う人の要求に沿って設計と評価を繰り返す規律で、デザイン思考はその態度を課題の発見や事業の構想にまで広げた枠組みである。前者は作る対象がおおむね定まった場面で働き、後者は何を作るかから問い直す場面で働く。
切り分けの軸は、問いの位置にある。使いやすくなっているかを問うなら人間中心設計、そもそもこれを作るべきかを問うならデザイン思考の側に寄る。同じ利用者起点でも、答えを出す対象が違うため、必要な調査の粒度も変わってくる。
人間中心設計の項へ →デザイン思考とダブルダイヤモンドの違い
デザイン思考は姿勢と手法の総称で、ダブルダイヤモンドはその進み方を図として示した型である。前者は何を大事にするかを述べ、後者はいまどの局面にいるかを示す。型は姿勢を運ぶ器であって、図をなぞれば姿勢が備わるわけではない。
実務では、図があると議論の位置をそろえやすい。まだ課題を広げる段階なのか、解決を絞る段階なのかを共有できるためである。ただし段階の名前を追うことが目的になると、広げるべき場面で早々に絞るといった姿勢の側の逸脱が見えにくくなる。
ダブルダイヤモンドの項へ →使いどころ
新規事業や既存サービスの改善で、利用者の実態が見えにくいときの初期アプローチとして用いる。ブランドの文脈では、送り手の都合ではなく受け手の体験を起点に価値を組み立て直す姿勢として参照される。
実務でのチェックポイント
- 進めている企画が解こうとしている問いを一文で書く。書けないなら、まだ課題が定義されていない。
- 直近の企画で、当初の課題設定が途中で変わったかを振り返る。一度も変わらないなら、探索の局面が省かれている。
- 利用者に会った人と、意思決定する人が同じかを確かめる。分かれているなら、伝わる過程で何が落ちているかを見る。
- 案を出す会議で、その場で否定された案の数を数える。発散の場に評価が混ざっていないかの目安になる。
よくある誤解
発想を出すための手法だと理解されやすいが、実際に効き目が大きいのは課題を定義し直す局面である。良い案が出ないという悩みの多くは、発想の量ではなく、解こうとしている問いの立て方に原因がある。問いを置き直すと、これまで見送った案の評価まで変わってくる。
もう一つは、共感という言葉が感情移入と同義に扱われる誤りである。ここで求められるのは、相手に寄り添う気持ちではなく、相手が置かれた状況と制約を事実として掴むことである。気持ちの話に寄せると、観察が印象論になり、判断の根拠としては使えなくなる。
よくある質問
デザイン思考は誰でも使えますか?
使えるが、成果の差は手順の理解より習慣の側に出る。人の話を聞いて自分の前提を疑う、形にしてから議論するという二つが日常になっているかで変わる。研修で手順を覚えても、この二つが職場の慣行と衝突すると定着しにくい。
デザイン思考はもう古いと言われませんか?
手順を形式的になぞる運用への批判はある。ただし批判の的は、発想の場を開くこと自体が目的になり、成果に結びつかない使われ方に向いている。利用者の側から問いを立て直すという中核の考え方は、批判を経ても残っている。
デザイン思考と市場調査は何が違いますか?
使う目的が違う。調査は仮説の確からしさを確かめるために行うことが多く、デザイン思考の観察は仮説そのものを作り替えるために行う。前者は答えを検証し、後者は問いを更新する。同じ手法を使っても、持ち帰るものが変わってくる。