アーキタイプ物語論
普遍的な原型に沿った物語構造で、ブランドの語りに共感の土台を与える考え方。
意味
アーキタイプ物語論とは、多くの文化や神話に共通して現れる普遍的な人物像や物語の型(原型)を手がかりに、ブランドの語り方を組み立てる考え方である。「探求者」「賢者」「創造者」といった型が、語りに一貫した性格と方向性を与える。
人が古くから親しんできた物語の型に沿うことで、ブランドのメッセージは受け手に直感的に理解されやすくなる。ただし型は出発点であり、型どおりに当てはめるだけでは没個性に陥る。自社固有の背景と結びつけて初めて、借り物でない語りになる点が要点となる。
成り立ち
普遍的な原型(アーキタイプ)という概念は心理学者カール・グスタフ・ユングの議論に連なり、後に物語論やブランド論へと援用された。ブランドを一つの人格・語り手として捉える発想の中で、その性格づけの枠組みとして用いられるようになった。
アーキタイプ物語論とブランドアーキタイプの違い
ブランドアーキタイプはブランドを一つの人格として捉え、どんな性格かを定める枠組みであり、アーキタイプ物語論はその人格がどんな筋書きの中で動くかを扱う。性格の指定と、話の運び方の指定という階層の違いになる。
原型を選んだだけで語りが動き出すことはない。「賢者」と決めても、誰の前に現れ、どんな迷いを解く役なのかが空欄のままなら、手元に残るのは落ち着いた・信頼できるといった形容詞の列である。原型が与えるのは登場人物の性格づけであって、筋書きではない。顧客がどの場面で行き詰まり、そこへ自社がどう関わるのかを重ねたとき、型はようやく語りとして立ち上がる。
ブランドアーキタイプの項へ →アーキタイプ物語論とストーリーテリングの違い
ストーリーテリングは物語の形で伝えるという行為そのものを指し、アーキタイプ物語論はその物語をどの型に沿わせるかという設計の側を指す。語ること全般と、語りの骨格を選ぶことでは、扱っている階層が違っている。
切り分けの手がかりは、判断が要る場面にある。何を語るかで迷ったときに戻る先が型で、どう語れば伝わるかで迷ったときに考えるのが語り口になる。型を決めずに語りだけを磨くと、回ごとに主役や敵役が入れ替わりやすい。
ストーリーテリングの項へ →使いどころ
ブランドの語り口やコミュニケーションの性格に一貫性を持たせたい場面で参照される。どの原型を軸に据えるかを定めることで、コピーや世界観の判断に共通の基準が生まれる。型の借用にとどめず自社の文脈へ翻訳することが実務上の要点となる。
実務でのチェックポイント
- 自社の語りの中で、変化を経験しているのが顧客か自社かを確かめる。自社の成長物語になっているなら、聞き手が自分を置く場所がない。
- 掲げた型を伏せて語りだけを社外の人に読ませ、どんな性格の会社だと感じたかを聞く。ずれていれば、型は文書の中だけにある。
- 語りに出てくる困りごとが、実際の顧客が口にした言葉と重なっているかを照らす。作り手が想像した課題だけなら、共感の土台は薄い。
- 同じ型を掲げる同業が周囲にどれだけいるかを見る。重なっている場合、差がつくのは型ではなく持ち込んだ固有の出来事の側になる。
よくある誤解
型に当てはめれば物語ができる、という順序で扱われやすい。型は既に人が知っている筋書きを借りる仕組みであるため、当てはめる作業自体は速く終わる。ただし借りた筋書きの中に自社固有の出来事が入っていなければ、聞き手には他社でも成立する話として届く。
もう一つは、自社を主役に据えることが前提とされる点である。多くの型では、変化を経験するのは受け手の側にあたり、ブランドはその変化を助ける役に回る。主役の位置を譲らないまま語ると、自慢話の構造から抜けられなくなる。
よくある質問
アーキタイプは途中で変えてもよいですか?
変えられるが、頻繁に入れ替える対象ではない。型は語りの一貫性を支えるために置くものなので、変えるたびに受け手は覚え直すことになる。事業の中身や向き合う相手が変わったときに見直す程度の間隔が、実務では扱いやすい。
複数の型を組み合わせてもよいですか?
主となる型を一つ決めた上で、補助的に別の性格を足す形なら成立する。対等に二つを並べると、どちらの筋書きで判断するのかが決まらず、制作の現場で迷いが増える。組み合わせるなら、優先の順序まで明示しておく必要がある。
BtoBの事業でも物語の型は使えますか?
使える。検討が長く関係者も多い場面ほど、社内で誰かが自社を要約して他の人へ伝える場が生まれ、そのときに残るのは筋書きの側になる。機能の一覧は伝言の途中で落ちるが、誰をどう助ける会社かという形は残りやすい。