ブランドアーキタイプ
ブランドの人格を神話的な原型(英雄・賢者・愛など)に重ねて捉える枠組み。人が直感的に感じ取る性格の設計に使う。
意味
ブランドアーキタイプとは、ブランドの人格を英雄・賢者・愛といった神話的な「原型」に重ねて捉える枠組みである。人間が古くから物語の中で繰り返し出会ってきた普遍的な性格の型を借りることで、ブランドが直感的にどんな存在として感じられるかを設計する道具になる。
この枠組みの利点は、抽象的な「らしさ」を、誰もが共有できる分かりやすい人格像へ翻訳できる点にある。たとえば同じ品質でも、賢者として語るブランドと反逆者として語るブランドでは、纏う空気も惹きつける相手も変わる。原型は、その方向を一つに束ねる羅針盤として働く。
経営者にとっては、表現の細部を毎回議論する前に、そもそも自社がどんな性格で世界に立つのかを合意しておくための共通言語になる。原型が定まると、言葉づかいから広告のトーンまで、判断が一貫しやすくなる。
成り立ち
アーキタイプ(元型)はもともと心理学者C・G・ユングが唱えた概念で、人類が共有する無意識の普遍的なイメージの型を指す。これをブランドに応用した系譜として、マーガレット・マークとキャロル・S・ピアソンが著書の中で十二の原型を提示し、ブランドの人格設計に用いる考え方を広めたことが知られている。
ブランドアーキタイプとブランドパーソナリティの違い
ブランドパーソナリティは自社の性格を形容詞で並べたもので、いくらでも足していける。アーキタイプは物語の型を一つ選ぶ作業で、選んだ時点で他の型を捨てることになる。書き足していく記述と、選んで捨てる選択という点で、作業の向きがそもそも逆になっている。
使い道も違う。パーソナリティは表現のトーンを揃える手前で共有される語彙として働き、アーキタイプは何を語らないかまでを決める。誠実で革新的といった形容詞が並んでいるのに制作の場で判断が割れるなら、まだ型が選ばれていない段階にある。
ブランドパーソナリティの項へ →ブランドアーキタイプとブランドエッセンスの違い
エッセンスは自社が何であるかを一行に凝縮したもので、中身は自社の固有の事情から立ち上がる。アーキタイプは外から借りてくる既成の型で、他社と重なることが前提に置かれている。自前でつくるものと、借りて当てはめるものという出所の違いがある。
順序で言えばアーキタイプが手前に立ちやすい。方向を大づかみに決めてから、自社固有の言葉へ落としていく。ただし型のままエッセンスに据えると、同じ型を選んだ他社と見分けのつかない一行ができあがる。借り物は途中で自分の言葉に置き換わる必要がある。
ブランドエッセンスの項へ →使いどころ
ブランドの性格や世界観を定める段階で、方向づけの叩き台として使われることが多い。複数の候補から一つの原型を選び、それを軸に言葉やビジュアルの表現を揃えていく。ただし原型はあくまで出発点であり、型に当てはめること自体が目的化すると、かえって没個性になりかねない点には注意したい。
実務でのチェックポイント
- 自社が選んだ型と、社員が普段使っている自社の説明の言葉が噛み合っているかを確かめる。型のほうだけが浮いていないかを見る。
- 選ばなかった型を二つ挙げ、なぜ自社と違うのかを一文で説明してみる。説明できないなら、選択ではなく好みで決まっている。
- 同業他社が名乗りそうな型を書き出し、自社の型と重なっていないかを見る。重なるなら、型の外側で違いをつくる必要がある。
- 型に合わない振る舞いが日常業務のどこに残っているかを探す。掲げた性格と現場の応対がずれる場所が、最初に手を入れる箇所になる。
よくある誤解
十二の型のどれかに必ず収まるはずだ、という前提のまま議論が進むことがある。実際には複数の型にまたがる会社のほうが多く、無理に一つへ寄せると、日々の実感から遠い性格が掲げられる。型は自社を分類するための箱ではなく、方向を語るための共通語として使うほうが実務は動く。
選んだ型がそのまま表現の指示になると誤解されることもある。英雄を選んだから勇ましい言葉を使う、賢者だから説明を厚くする、といった直訳は、型の輪郭だけをなぞって中身を空洞にする。型が決めるのは語り口の細部ではなく、誰の何を助ける存在として立つかという位置のほうになる。
よくある質問
アーキタイプは複数選んでもよいですか?
主となる型を一つに絞り、補助を添える形なら扱える。二つを対等に置くと、判断が割れたときにどちらを優先するかが決まらず、型を選んだ意味が薄れる。補助として置く場合も、主の型を修飾する範囲に留めるという前提を先に共有しておく必要がある。
アーキタイプを決めると表現の自由が狭まりませんか?
狭まるが、それ自体が目的にあたる。選択肢が無限にある状態では、担当者ごとの好みが実質的な基準になり、接点ごとに雰囲気がばらつく。型は制約を先に置くことで、細部の議論を毎回やり直さずに済ませるための道具として働く。
BtoBの企業でもアーキタイプは使えますか?
使える。取引先の担当者も人であり、どんな相手と組んでいるかという印象は判断に影響する。ただし個人向けの商材ほど型の輪郭を派手に出す必要はなく、提案書の書きぶりや問い合わせへの応じ方といった地味な接点に型が表れる形になる。