— 01 —01|二年で辞める、理由がはっきりしない
採用は成功した。面接での印象も良く、入社後しばらくは戦力として育っていた。任せられる仕事も増え、これからという時期に差しかかっていた。ところが二年ほど経つと、静かに退職の意思を伝えてくる。引き止めても気持ちは戻らず、去っていく。
退職面談で理由を聞いても、「キャリアを考えて」「他にやりたいことが」と当たり障りのない言葉が返るだけだ。待遇に不満があったわけでも、人間関係が壊れていたわけでもない。本音を言わずに辞めていくから、会社としては対策の打ちどころがなく、また同じサイクルに入る。募集をかけ、選考し、採り、育て、そして二年でまた抜ける。
採用単価をかけて採り、時間をかけて育てた人が抜ける痛みは、採れない痛みより深い。育成にかけたコストが丸ごと消え、その人が担っていた業務が宙に浮き、残った社員の負荷も増える。引き継ぎのたびに現場は疲弊し、それを見た他の社員の気持ちも揺れる。「採れない」は入口の問題だが、「辞める」は会社の中身の問題だ。ここを放置したまま募集を増やしても、穴の空いたバケツに水を注ぐことになる。
「思っていたのと違った」で辞められるのが、いちばん静かに効いてくるんですよね。大きな事件がないぶん、どこを直せばいいのか分からないまま次の募集に入ってしまう。個人的にここが一番切ないところです。
— 02 —02|辞める人は、入社前の期待と入社後の実感がずれている
定着しない会社に共通しているのは、待遇の低さではなく、入社前に抱いた期待と、入社後に感じた実感のずれだ。求人や面接で伝わってきた会社像と、実際に働いて見えてきた会社が、微妙に食い違っている。この食い違いが、時間をかけて静かに人を離れさせる。
たとえば「風通しがいい」と聞いて入ったのに、実際は決裁が上で止まる。「成長できる」と期待したのに、任される範囲がいつまでも見えない。一つひとつは小さなずれでも、日々積み重なると「この会社は自分が思っていた会社ではない」という静かな失望になる。この失望は不満として言語化されにくく、だから退職理由も曖昧になる。
問題は、採用の場で語る会社の姿と、現場で運用されている会社の姿が、別々に管理されていることにある。採用は良い面を強調して人を集め、現場はそれとは無関係に日々を回す。両者を突き合わせる仕組みがないから、入った人だけがそのギャップを引き受ける。
両者が一致していれば、入社後のギャップは小さくなる。聞いていた通りの会社だったと感じられれば、多少の不満は乗り越えられる。定着とは、入る前と入った後で「同じ会社だ」と感じられる状態のことだ。待遇を上げることではなく、語られた姿と実際の姿を揃えることが、離職を止める。
— 03 —03|定着とは、入社前と入社後の像を一致させること
採用の言葉と現場の実感を一致させ、社内外で同じ会社像を保つ営みを、ブランディングと呼ぶ。外向けの飾りでも、採用のための誇張でもない。会社の内側と外側で語られる姿を揃える作業だ。定着の文脈では、これがそのまま離職の予防になる。
ここで問われるのは、見た目の手前にある一貫性である。求人で語る価値観、面接で伝える働き方、入社後に実際に運用される評価や意思決定。これらが同じ像を指していれば、社員は「聞いていた通りだ」と感じる。ずれていれば、どんなに待遇を上げても信頼は目減りしていく。良く見せることではなく、見せた通りに運用することが問われる。
この一貫性は、社員が自社を語るときの言葉にも表れる。入社前に聞いた説明を、働いたあとも同じ言葉で語れるなら、その会社は像がぶれていない。逆に、入社後に社員が語る会社が求人の言葉と食い違っていれば、次に入る人も同じずれに直面する。だから一貫性の点検は、いまいる社員の声から始められる。
定着する会社が選ばれ続けるのは、居心地の良さや手当の厚さではなく、この「聞いていた会社と、働いている会社が同じ」という信頼があるからだ。人は、裏切られなかった会社に留まる。像の一致は、その信頼を生む土台になる。
— 04 —04|明日、辞めた人が入社前に何を期待していたか書く
まず、直近で辞めた数人について、入社前にどんな期待を持っていたかを思い出して書き出す。そのうえで、入社後の現場がその期待にどう応えられなかったかを並べる。ずれの正体が、そこに浮かび上がる。同じ項目が繰り返し出てくるなら、それは偶然ではなく構造だ。
次に、いま採用の場で語っている会社の姿と、現場で実際に運用されている姿を、二列で書いて突き合わせてみてほしい。両者がずれている項目こそ、次に辞める人が引っかかる場所だ。埋めるべきは、そのずれである。
そして、定着している社員に「入社前の説明と、実際は同じだったか」と聞いてみる。長く残っている人の答えには、この会社が守れている約束が映る。その答えが、いまの会社の一貫性の点数になる。まずは社内の像と社外の像のずれがどこにあるのか、整理するところから始めてほしい。
- 辞める原因は待遇より、入社前の期待と入社後の実感のずれにある
- 採用の言葉と現場の運用が別管理になっていないかを点検する
- 社内外で語られる会社像を一つに揃えることが離職予防になる