— 01 —毎秒1本、コルクが抜かれるブランド
宣伝会議のAdverTimesが、モエ・エ・シャンドンのブランド戦略を、モエ ヘネシー ジャパンの島岡芳和氏(マーケティングディレクター)と野村可能子氏(ブランドディレクター)の言葉とともに紹介している。記事は「毎秒に一本、世界のどこかでコルクが抜かれている」というスケール感から説き起こす。
F1の公式シャンパン、ゴールデングローブ賞、映画祭——モエは「祝福」や「勝利」の瞬間を象徴する存在として位置づけられてきた。島岡氏は「偉大なる歴史と紡いでいく未来」を基本姿勢に挙げ、「人生は分かち合うことで豊かになる」という理念を掲げる、と記事は伝えている。結婚式のような体験の機会が、ブランドへの入り口になるという。
じつは、乾杯の場面でぱっと一つの銘柄が浮かぶこと自体が、とんでもない資産なんですよね。うちの会社はどんな瞬間に思い出してもらえるだろう、と考えると、少し背筋が伸びます。
— 02 —モエが売っているのは、味ではなく意味だ
シャンパンという商品カテゴリの中だけで戦えば、勝負はやがて味と価格に落ちていく。だがモエは、そこで戦っていない。祝福という瞬間を占有することで、人が誰かを祝いたくなるたびに思い出される場所に立っている。カテゴリではなく、人生の一場面を持ち場にしているのだ。
この占有は、一夜でできたものではない。何世紀にもわたって、同じ「祝福」という意味を一貫して積み上げてきたからこそ、その連想が揺らがない。ここに判断の一貫性の力が見える。広告のたびに言うことが変わるブランドは、どんな瞬間の持ち主にもなれない。逆に、長く同じ意味を選び続けた者だけが、その意味の代名詞になれる。
だからこれは、規模や歴史のある企業だけの話ではない。むしろフェーズの若い会社ほど、早い段階で「どの瞬間の持ち主になりたいか」を一つに絞ることが効いてくる。占有すべきは、市場シェアの前に、顧客の記憶の中の一場面だ。
— 03 —と、いうことで。
この記事を読んだあなたが今日できるのは、自社が「顧客のどんな瞬間に思い出されたいか」を一つだけ言葉にしてみることだ。売れる商品を数える前に、占有したい場面を名指しする。「困ったとき」なのか「祝うとき」なのか「始めるとき」なのか——一場面に絞るほど、連想は濃くなる。
決めた瞬間を、次は一貫して積み上げていく。広告も、接客も、商品名も、その一場面に寄せていく。モエの百年が教えるのは、意味の占有は才能ではなく、同じことを長く言い続けた一貫性の果実だということだ。まずは、その一場面を一文で書くところから始めたい。
- 商品カテゴリで戦う前に、占有したい「顧客の一場面」を一つに絞る
- 意味の占有は才能ではなく、同じことを長く言い続けた判断の一貫性の果実
- フェーズの若い会社ほど、早く「どの瞬間の持ち主になるか」を決めると効く