— 01 —裏方が、体験の一部になろうとしている
アジェンダノートが、Visaが「推し活」市場をとらえる新たなブランド戦略を発表したと報じている。第一弾として、アーティスト・Adoのスタジアムライブに協賛し、カード会員向けの先行チケットやオリジナルグッズを提供したという。記事は、Visaが単発のイベント協賛にとどまらず、音楽を起点にスポーツ・アニメ・ゲームなどファンカルチャー全体を重要な顧客接点と位置づけ、エンゲージメント強化に乗り出す方針だと伝えている。
決済は本来、買い物の最後に一瞬だけ触れる裏方の機能だ。その裏方が、ファンが熱を注ぐ体験そのものの一部になろうとしている——記事はこの動きを、決済ブランドが「参加するファン」の価値に注目した戦略として前向きにまとめている。
決済って、ふだんは意識もしない裏方なんですよね。それがライブの熱狂の隣に立とうとすると聞くと、目立たない役割のまま記憶に残る手があるんだ、と少しわくわくします。
— 02 —機能で選ばれる時代の、その先
決済に限らず、多くのブランドは「機能」で競おうとする。速い、安い、便利——だが機能は模倣されやすく、突き詰めるほど横並びになる。Visaのこの一手が興味深いのは、機能の優劣の外側に、どんな時間の一部でありたいかという問いを置いた点だ。ライブの高揚、推しへの愛着、その熱量の隣に自社を置く。人は、機能ではなく、記憶に残った文脈でブランドを選ぶ。
ここにあるのは、「見た目の手前」の判断だ。ロゴを大きく出すことでも、協賛の露出量でもなく、ファンにとって意味のある体験を成立させる裏方に回る。決済という一貫した役割は変えないまま、その役割が発揮される場所を、日常の買い物からファンの晴れ舞台へと広げている。立ち位置の再定義とは、事業を変えることではない。同じ強みを、どの文脈で発揮するかを選び直すことだ。裏方であることを捨てず、裏方のまま主役の隣に立つ。ここに、成熟したブランドの余裕がある。
— 03 —と、いうことで。
この記事を読んだあなたがまず問うべきは、自社の商品やサービスが「顧客のどんな時間の一部になっているか」だ。多くの会社は、機能や価格でしか自分を語れない。だが顧客の生活のどの場面に、どんな気持ちのときに自分たちが現れているかを書き出すと、機能の外側にある立ち位置が見えてくる。
次に、その場面の熱量を高めるために自分たちが裏方としてできることを一つ挙げてみる。前に出て目立つことではなく、顧客の体験を成立させる側に回れないか。同じ強みでも、置く文脈を選び直すだけで、記憶のされ方は変わる。今日の一歩は、自社が「機能」ではなく「文脈」で語れる言葉を一つ持つことだ。
- 自社が「顧客のどんな時間・どんな気持ちの一部になっているか」を書き出す
- 機能や価格の外側にある立ち位置を、一つの文脈として言語化する
- 前に出るより、顧客の体験を成立させる裏方としてできることを一つ挙げる