ジャーナル · 採用2026.04.12

採用ブランディングを、事業ブランディングと別物にしない。

採用サイトでは挑戦を語り、事業サイトでは安定を語る。悪気のない分業が、候補者と顧客の双方に矛盾した企業像を残す。採用ブランディングは事業ブランディングの派生物でも別物でもなく、同じ一つのブランドの二つの現れ方だ。分けずに設計するための考え方を整理する。

目次
  1. なぜ採用と事業は別物になるのか
  2. エンプロイヤーブランドの原点に戻る
  3. 分断が生むコスト
  4. 一つのブランドとして設計する

— 01 —なぜ採用と事業は別物になるのか

採用ブランディングは人事部、事業ブランディングはマーケティング部門。多くの企業で担当は分かれ、予算も指標も別々に走っている。採用側は応募数や内定承諾率を追い、事業側はリードや売上を追う。この構造のもとでは、それぞれが自分の相手に最も響く言葉を最適化していく。候補者には挑戦と成長を、顧客には安定と実績を。悪気のない最適化の積み重ねの結果として、二つの異なる企業像が同時に世へ出ていくことになる。

しかし受け手の側に立てば、この分業はそもそも成立していない。候補者は応募の前に製品やサービスの評判を調べ、顧客として企業に触れる。顧客は取引先の社員の振る舞いや、採用ページに書かれた言葉から企業の体質を判断する。受け手の頭の中では、採用の像と事業の像は最初から一つに混ざっている。分かれているのは、発信する側の組織図だけなのである。

分業そのものが問題なのではない。採用と事業では向き合う市場も求められる専門性も異なる以上、担当が分かれるのは自然なことである。問題は、両者をつなぐ共通の基準を持たないまま、それぞれの最適化が独立に走り続けることだ。接続の設計を欠いた分業は、時間の経過とともに必ず企業像を割っていく。まずこの構造的な宿命を認めることが、立て直しの第一歩になる。

採用と事業でトーンを分けたほうが刺さる、という感覚もわかるんですよね。でも候補者はふつうに事業サイトも見ているわけで、そこで矛盾に気づかれる瞬間が地味に痛い気がします。

— 02 —エンプロイヤーブランドの原点に戻る

「雇用主としてのブランド」という概念を最初に定式化したのは、アンブラーとバロウによる1996年の論文である。彼らは雇用主ブランドを、雇用によって提供される機能的・経済的・心理的便益の束と定義した。仕事を通じて得られる成長の機会、報酬、そして帰属や誇りの感覚。これらを、顧客向けのブランドとまったく同じ枠組みで捉えたのだ。重要なのは、彼らがこれを既存のブランド論の延長として、つまり同じブランドの雇用市場における現れとして論じた点である。

この起源に立ち返れば、採用ブランディングとは「採用向けの別ブランドを作る」ことではないと分かる。事業が顧客に約束している価値を、働く場としての約束に翻訳する仕事である。顧客に誠実さを約束する企業であれば、社員に対しても誠実な組織であるはずだ、という素朴な期待に応えること。核は一つで、翻訳先が違うだけ。この理解がすべての出発点になる。

— 03 —分断が生むコスト

採用と事業の発信が食い違うと、まず候補者の側に入社後のギャップが生じる。採用の場で語られた姿と実際の組織が違えば、期待は裏切られ、早期離職やエンゲージメントの低下として跳ね返ってくる。時間とコストをかけて集めた人材が、発信の矛盾そのものによって流出していく構図である。

顧客の側にもコストは及ぶ。あるBtoB企業では、事業上は堅実さと継続性を訴求しながら、採用では急成長と変化ばかりを強調した結果、長年の取引先から「どちらが本当の姿なのか」と問われる場面が生じたという。像の矛盾は、それ自体が信頼を静かに目減りさせていく。

さらに社内では、二重のメッセージが社員の混乱を招く。対外的に自社をどう語ればよいかが定まらないため、現場の発信は萎縮するか、個々人の解釈でばらけるかのどちらかに向かう。分断のコストは、社外と社内の両方に同時に積み上がる。

— 04 —一つのブランドとして設計する

設計し直す出発点は、事業と採用に共通する核、すなわちパーパスやバリューを一つに定めることだ。顧客への約束と社員への約束を、同じ核から導く。もちろん語り口や強調点は市場ごとに変えてよい。候補者に響く表現と顧客に響く表現は異なって当然だが、その根にある価値観と人格は一つに保つ。翻訳は自由に、原文は一つに、である。

実務では、採用広報と事業広報が同じブランドガイドラインを参照し、互いの制作物を相互にレビューする体制を作るのが早い。そして最終的な責任は、人事にもマーケティングにも閉じず、経営が持つ。採用で語る自社と、事業で語る自社が同じであること。語られた約束と組織の実態が一致していること。それ自体が、どんな凝ったコピーよりも強い採用メッセージになる。

なお、ここでいう一致は、飾らずすべてをさらけ出すことと同義ではない。よく見せる努力と、違う姿を見せることは別物である。事業でも採用でも、自社の実態に根ざした魅力を磨いて提示する。その規律さえ守られていれば、二つの発信は互いを打ち消すのではなく、互いの信頼性を補強し合う関係へと変わっていく。候補者が事業サイトを読んでも、顧客が採用ページを見ても、同じ一つの会社だと感じられる状態。それが目指すべき到達点である。

◆ 経営がここから判断すべきこと
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▸ 参考・引用
Tim Ambler & Simon Barrow(1996) The Employer Brand

この論点、自社ならどう動くか。もう一歩ふみ込んで考えたくなったら、いつでも。

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