ストーリーテリング
事実や価値を、物語の形に載せて伝える手法。共感や記憶への残りやすさを高める狙いがある。
意味
ストーリーテリングとは、伝えたい事実や価値を、物語の形にして届ける手法のことである。事実の羅列ではなく、登場人物や変化のある筋立てを通じて意味を伝える。
人は物語の形で語られた情報を、感情とともに受け取り、記憶に残しやすいとされる。数字や特徴の列挙より、共感を通じて届く点に特徴がある。
ブランドの文脈では、創業の背景や顧客の変化などを物語として語ることで、無機質になりがちな情報に意味と温度を与える。
成り立ち
storytelling は「物語を語ること」を意味する英語で、古くからの語りの技法を指す。これがコミュニケーションやブランドの文脈に取り込まれ、伝え方の手法として用いられるようになった。
人が物語を通じて情報を受け取り記憶しやすいという理解を背景に、ブランドや広告の語彙として定着した。
ストーリーテリングとコピーライティングの違い
コピーライティングは、言葉を選び抜いて一点に凝縮する仕事である。ストーリーテリングは、時間の流れと変化を通じて意味を伝える。片方は短く言い切ることで働き、もう片方は長さと順序があって初めて働く。
使い分けの目安は、受け手がどれだけ時間を割く場面かにある。一瞬で通り過ぎる接点では凝縮した言葉が要り、腰を据えて読む場面では変化の描写が効く。同じ内容でも、置かれる場所によってどちらの形が適するかが変わる。
コピーライティングの項へ →ストーリーテリングとコーポレートストーリーの違い
コーポレートストーリーは、企業そのものの来歴と存在理由を語る一つの物語を指す。ストーリーテリングは、何を語るかを問わない伝え方の技法である。対象が定まっているかどうかが違いになる。
実務では、技法だけを取り入れて語る中身が定まらない事態が起きやすい。物語の型に沿って書けば形にはなるが、企業として何を引き受けてきたかが定まっていなければ、案件ごとに別の物語が生まれる。型と中身は別に用意することになる。
コーポレートストーリーの項へ →使いどころ
ストーリーテリングは、ブランドの背景や価値観を伝える際に用いられる。事実に意味づけを与え、共感を生む役割を担う。
物語が実態と食い違うと信頼を損なうため、演出と誠実さのバランスが問われる。ブランドの世界観やコンセプトと一貫させることが重視される。
実務でのチェックポイント
- 自社の物語のうち、読み手が自分の経験に重ねられる箇所がどこかを一つ挙げる。
- 創業から現在まで一度も迷わなかった筋書きは、聞き手に何も残さない。うまくいかなかった時期や、方針を切り替えた場面を語りに戻すところから手をつける。
- 物語の主語が自社になっている箇所と、顧客になっている箇所の分量を比べる。
- 語った内容と実際の商品や対応の間に食い違いがないかを、別の部署に読んでもらう。
よくある誤解
物語にすれば伝わる、という理解が最も広く共有されている誤りにあたる。実際に効くのは筋立ての存在ではなく、受け手が自分の経験に重ねられる部分があるかどうかである。創業の苦労を詳しく語っても、読み手の生活と接点がなければ他人の身の上話として通り過ぎる。
感動的にまとめようとして、都合の悪い経緯を落としてしまう傾向もある。整いすぎた物語は、作られたものとして受け取られやすい。失敗や方向転換が残っているほうが、なぜ今の形になったかの説明として働き、語り手の側の誠実さも同時に伝わる。
よくある質問
ストーリーテリングは何から書き始めればよいですか?
変化が起きた場面から探すほうが早い。何を大事にしているかを説明しようとすると理念の言い換えになりやすいが、判断を変えた出来事や断った仕事の話には、初めから筋立てが備わっている。出来事を先に選び、意味づけは後から添える順序になる。
創業の物語がない会社はどうすればよいですか?
起点を創業に限る必要はない。顧客が抱えていた困りごとと、その後の変化を辿れば、語る主体を顧客の側に置いた物語が成り立つ。自社の来歴が短いほど、誰の何を変えてきたかの積み重ねが素材になる。
物語を語ると事実が曖昧になりませんか?
その危うさは常にある。分かりやすさのために順序や因果を整えると、実際には偶然だったことが必然のように読める。防ぐには、脚色できる部分と動かせない事実を書き分け、後者は確かめられる形で示す。語りの範囲を自分で線引きしておく。