コーポレートストーリー
企業の来歴や志を物語として語り、共感と記憶に残る理解を生む語りの営み。
意味
コーポレートストーリーとは、企業の来歴や志を物語のかたちで語る営みを指す。事実や数字を並べるのではなく、なぜ生まれ、何を目指し、どんな困難を越えてきたかを筋立てて伝える。
物語のかたちを取ることには理由がある。人は連なった出来事に感情を寄せ、記憶にとどめやすい。理念や価値観も、物語に織り込まれることで、抽象的な言葉より深く伝わる。
ただし、語られる物語は実際の姿と結びついている必要がある。飾り立てた物語が実態と食い違えば、かえって不信を招く。事実に根ざしていることが、語りの説得力を支える。
成り立ち
storytelling(物語を語ること)を企業(corporate)に適用した呼称で、企業の来歴や志を物語として伝える営みを指す。
理念や価値観を共感とともに伝える必要が意識される中で、物語の持つ伝達の力を企業の語りに生かす発想として広まった。
コーポレートストーリーとストーリーテリングの違い
ストーリーテリングは語りの手法そのものを指し、対象は製品でも体験でも構わない。コーポレートストーリーは、語る主語を企業に定めたものである。主語が企業になると扱う時間の幅が創業から現在までに広がり、都合の悪い時期の扱いが避けて通れなくなる。
使い分けの目安は、語り直せる頻度にある。製品の物語は世代交代のたびに置き換えられるが、企業の物語は積み上げてきた事実の上にしか成り立たないため、書き換えると過去の説明との食い違いがそのまま残ることになる。
ストーリーテリングの項へ →コーポレートストーリーとコーポレートステートメントの違い
コーポレートステートメントは姿勢を凝縮した一文であり、コーポレートストーリーはその一文がどこから来たのかを筋立てて示す語りである。前者は掲げるもので、後者は説明するものにあたる。短い言葉だけでは伝わらない背景を補う関係にある。
順序で言えば、語りのほうが先に存在していることが多い。積み重ねてきた出来事があり、そこから抜き出された言葉が宣言になる。逆に宣言を先に決めてから物語を組み立てると、後付けの説明として読まれ、事実との接ぎ目が目立つことになる。
コーポレートステートメントの項へ →使いどころ
コーポレートストーリーは、企業の志や来歴を共感とともに伝える場面で用いられる。何を、どんな筋立てで語るかを設計する。
ブランドパーパスや企業文化の議論と結び付けると、掲げる志を語りとして体現する道筋を描きやすくなる。
実務でのチェックポイント
- 語られている出来事のうち、社内の資料や当時を知る人で裏が取れるものがどれかを確かめる。取れない箇所は削る対象になる。
- 入社して間もない社員に読んでもらい、自分の仕事と結びつく箇所があるかを尋ねる。ないなら過去の話に留まっている。
- 語りの中に、うまくいかなかった判断が含まれているかを見る。成功だけで構成されていると、聞き手は距離を取る。
- 営業資料と採用ページ、創業者が語った記事を並べ、創業の動機と転機の描かれ方を照合する。宛先ごとに別の来歴が育っていれば、どれを聞いた人にも作り話に映る。
よくある誤解
困難を越えた筋立てが求められるあまり、実際にはなかった転換点が置かれることがある。物語として整うほど疑いを招きにくくなるが、当時を知る社員や取引先から見れば違和感が残る。整合を優先して事実を削ると、社外より先に社内で信じられなくなることになる。
創業者の個人史に寄りすぎる偏りも起きやすい。始まりの物語は語りやすく共感も得やすいが、代が替わり事業の範囲が広がった後も同じ語りだけが残ると、いま働いている人たちが自分の話として引き受けられなくなる。誰を主人公として語るかは、時期に応じて置き直す対象になる。
よくある質問
歴史の浅い会社でもコーポレートストーリーは作れますか?
作れる。物語を成り立たせるのは年数ではなく、なぜ始めたかという動機と、そこから何を選び何を選ばなかったかという判断の連なりになる。短い期間でも、引き受けなかった仕事や方針を変えた場面があれば、筋立ては十分に成立する。
都合の悪い出来事は書かないほうがよいですか?
触れないより、扱い方を決めておくほうが安全になる。伏せた出来事は外から持ち出されたときに大きく響き、語ってこなかったこと自体が問われる。何を学び、その後どう変えたかまで含めて筋の中に置けば、物語の信頼性を支える側に回る。
誰が書くべきですか?
書き手より、事実を確かめられる人が関わっているかで質が決まる。文章の運びは外部の手を借りられるが、どの出来事を入れるかの判断には当時の経緯を知る人が要る。整った文章に事実の誤りが混ざると、直すのは公開の後になり負担が大きくなる。