ワントゥワンマーケティング
顧客一人ひとりの属性や履歴に応じて、個別最適化した訴求や体験を提供するマーケティング手法。
意味
全員に同じ内容を届けるマスマーケティングとは対照的に、個々の顧客を単位として関係を築く考え方を指す。
購買履歴・行動データ・嗜好などをもとに、内容やタイミングを一人ひとりに合わせて調整する点が特徴とされる。
成り立ち
1990年代にドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズが著書『The One to One Future』で提唱した概念として知られる。
データベースやデジタル基盤の普及により、大量の顧客に対しても個別対応が現実的になった背景がある。
ワントゥワンマーケティングとパーソナライゼーションの違い
出し分けの仕組みを入れれば、パーソナライゼーションは明日からでも動き出す。一方のワントゥワンマーケティングが指すのは、顧客一人ひとりを単位に据えて関係を重ねていく構えであり、機能の導入だけでは成立しない。片方は施策の実装として語られ、もう片方は事業の方針として語られる。同じ出し分けでも、その先に関係の継続が設計されているかで呼び名が変わる。
取り違えると、出し分けの仕組みを入れた時点で実現したと見なしてしまう。だが個別に出し分けても、蓄積した理解が次の接点に引き継がれていなければ、その場かぎりの最適化が並ぶだけになる。関係が積み上がっているかどうかが、方針として成立しているかの目安になる。
パーソナライゼーションの項へ →ワントゥワンマーケティングと顧客関係管理(CRM)の違い
顧客関係管理は、顧客との関係を記録し運用していく仕組みや業務の総体を指す。ワントゥワンマーケティングは、その仕組みを何のために使うかという狙いを指す。器のほうを見ているのか、器に込める目的を見ているのかで語る層が変わる。器を語っているのか、目的を語っているのかを分ける。
混ざりやすいのは、道具の導入が目的に置き換わる場面である。記録が溜まっても、それを踏まえて次の対応が変わらなければ、管理されているだけの状態になる。蓄積が実際の応対を変えているかを問うと、どちらの話をしているのかがはっきりする。記録が実際の応対を変えているかが、分かれ目になる。
顧客関係管理(CRM)の項へ →使いどころ
メール配信やレコメンドで、顧客ごとに異なる内容を出し分ける設計をワントゥワンと呼ぶことがある。
取得したデータの範囲や同意の有無によって、実現できる個別化の度合いは変わる。
実務でのチェックポイント
- 出し分けている内容が、相手にとって実際に有用かを確かめる場を持っているかを見る。反応の数値だけでは、うるさく感じられている状態は見えにくい。
- 取得している情報のうち、実際に応対を変えるために使っているものがどれかを仕分ける。使っていない項目を集め続けていないかを確かめる。
- 個別に合わせている範囲を書き出し、そこに約束の中身が含まれていないかを見る。条件や品質まで人によって変わっていれば行き過ぎになる。
- 同意を得た範囲と、実際に利用している範囲が一致しているかを照らす。ずれていれば、精度より先に整えるべき場所がある。取得の経緯まで遡れるかも見る。
よくある誤解
精度を上げるほど喜ばれるとは限らない。過去の閲覧や購入を細かく踏まえた提示は、的中しているほど「なぜそこまで知っているのか」という驚きを先に引き起こす。どの情報がどこから渡ったのかを相手が辿れない状態では、当たっていること自体が居心地の悪さに変わる。何を手がかりにしているかを添えられるかが、精度を安心の側に置く条件になる。
個別対応と、一貫した像を保つことが両立しないと考えられる場合もある。相手に合わせて変えてよいのは、伝える順序や取り上げる内容の範囲であって、約束している中身までは動かさない。ここを分けずに個別化を進めると、人によって別の会社に見えるという状態が生まれる。変えてよい層と動かさない層を、先に分けておくことになる。
よくある質問
顧客数が多くないと意味がありませんか?
むしろ人数が少ないほど実行しやすい。個別に向き合うこと自体は、記録の仕組みがなくても担当者の理解で成り立つ。仕組みが必要になるのは、担当者一人では覚えきれない規模に達したときであり、順序としては向き合い方が先、道具は後になる。人数の少なさは、この点では不利にならない。
どこまで個別化すると行き過ぎになりますか?
相手が予期していない情報に基づいた提示は行き過ぎになりやすい。自分が伝えた覚えのある内容が反映されている分には受け入れられるが、伝えた覚えのない情報から言い当てられると警戒が生じる。何を根拠にしているかを示せる範囲に留めるのが実務的な線になる。
マスに向けた発信は不要になりますか?
不要にはならない。個別の出し分けは、既に接点のある相手にしか届かず、まだ知らない人を連れてくる働きは持たない。広く知られる作業と、知っている相手との関係を深める作業は目的が異なるため、どちらかで置き換えられる関係にはない。置き換えではなく、役割の分担として考えることになる。