モーションアイデンティティ
ロゴや要素の「動き方」の統一設計。静止した見た目だけでなく、動きの癖でも「らしさ」を識別させる。
意味
モーションアイデンティティとは、ロゴや構成要素の「動き方」を統一して設計する考え方である。静止した見た目だけでなく、どう現れ、どう変化し、どう消えるかという動きの癖を、ブランド識別の一部として扱う。
映像やウェブ、アプリなど、動きを伴う接点が増えるにつれて重要性を増した領域である。立ち上がりの速さ、間の取り方、要素の連なり方といった振る舞いに一貫した性格を持たせることで、音や色と同じように「らしさ」を伝える。
静的なロゴ規定を動きの次元へ拡張したものと位置づけられ、ブランドガイドラインやデザインシステムの一項目として仕様化されることが多い。
成り立ち
「モーション(motion)」は「動き」を、「アイデンティティ(identity)」は「識別・同一性」を意味する。視覚的な同一性を定めるビジュアルアイデンティティの発想を、時間軸を持つ動きにまで広げた語として、映像・デジタル表現の普及とともに用いられるようになった。
モーションアイデンティティとブランドガイドラインの違い
ブランドガイドラインは、色や書体、余白といった要素の使い方を他人が再現できる形にした規定の全体を指す。モーションアイデンティティは、そのうち動きの領域を担う部分にあたる。全体の規定と、その中の一章という関係で捉えると位置づけがはっきりする。
独立して語られるのは、動きが静止画の規定からは導けないためである。色や比率は数値で指定できるが、速さや間の取り方は数値だけでは性格が伝わらない。文字で書いた規定に加えて実際に動く見本が要る点が、他の章とは決定的に違う。
ブランドガイドラインの項へ →モーションアイデンティティとディスティンクティブアセットの違い
独自資産は、そのブランドだと見分けさせる要素の総称で、色や音、形などが含まれる。モーションアイデンティティは、動きをその候補の一つとして設計する取り組みになる。資産になり得たかどうかは、見分けられるかという結果の側でしか判定できない。
設計しただけでは資産にならない点が切り分けの軸になる。統一された動きを規定しても、接点ごとに別の動きが混ざっていれば受け手はその癖を学習しない。同じ動きが繰り返し現れ、名前を伏せても見分けられる段階に至って初めて資産の側に入る。
ディスティンクティブアセットの項へ →使いどころ
「モーションアイデンティティを定める」といった形で、動画のオープニングやUIのアニメーションに一貫性を持たせる場面で用いられる。個々の動画を場当たりに作るのでなく、共通の動きの規範に沿わせる際の基準になる。
実務でのチェックポイント
- 直近一年に出した動画や画面遷移を並べ、立ち上がりの速さや消え方に共通の癖があるかを見る。ばらついているなら規定は働いていない。
- 動きの規定が、文章だけでなく実際に動く見本として渡せる形になっているかを確認する。文章だけでは再現されない。
- 外部の制作会社へ渡している資料に、動きの指定が含まれているかを見る。含まれていなければ動きは毎回作り手の好みで決まる。
- ロゴが現れるまでの秒数や間の取り方が、媒体をまたいで揃っているかを確かめる。媒体ごとに違うなら癖は伝わらない。
よくある誤解
動きの設計を、演出の凝り方や派手さの問題と受け取られやすい。識別に効くのは目立つ動きではなく、繰り返し現れる一貫した癖のほうになる。毎回違う凝った動きを重ねても、覚えられるのは個々の演出であって、そのブランドの振る舞いとしては何も蓄積しない。
制作の都合で例外が積み上がる崩れもよく起きる。媒体ごとに尺や仕様が違うため、その場の判断で規定から外れた動きが採用され、数年後には統一されていたはずの前提が失われている。例外を認める基準と、誰が認めるのかを決めていない規定は、自然に溶けていく。
よくある質問
動画を作らない企業にもモーションアイデンティティは必要ですか?
画面上の接点があるなら関係する。ウェブサイトの読み込みや、ボタンを押したときの反応も動きにあたる。専用の映像を制作していなくても、こうした細かい振る舞いは日々受け手の目に触れている。映像がないことと、動きの規定が要らないことは別になる。
どこまで細かく決めればよいですか?
外部の作り手が迷わず再現できる粒度が目安になる。速さ、間、要素が現れる順の三点が指定されていれば、多くの場面は揃う。逆にすべての場面を網羅しようとすると規定が読まれなくなり、結局その場の判断で作られることになる。
既存のロゴを変えずに動きだけ設計できますか?
できる。静止した形はそのままに、現れ方と消え方へ共通の性格を与える形になる。むしろ形を変えずに済むぶん、積み上げてきた識別を保ったまま接点の印象を更新できる。動きの設計は、形の刷新とは切り離して着手できる領域になる。