— 01 —入稿実務の基礎を押さえる
まず、入稿データの土台を確認したい。印刷はCMYKの掛け合わせで色を作るため、画面のRGBのまま入稿すると、想定より色がくすんで見えることがある。制作の早い段階でCMYKを前提にしておくと、仕上がりとのずれが小さくなる。鮮やかな指定色や金銀を使いたい場合は、特色という選択肢もある。
次に、塗り足しと解像度だ。裁ち落とし、つまり紙の端まで色や画像を入れるデザインでは、仕上がり線の外側に数ミリの塗り足しを付ける。付け忘れると、断裁のわずかなずれで紙色の白が出てしまう。画像は原寸で十分な解像度を確保しておくと、写真やロゴのエッジがぼやけずに済む。
そのうえで、紙と加工を選ぶ。紙は大きく、表面をコーティングした塗工系と、素材感を残した非塗工系に分かれる。加工には、光沢や質感を足すもの、型で凹凸を付けるものなどがある。ここまでが、どんなチラシにも共通する入稿の基礎になる。
紙見本を触ってると、いつのまにか時間が溶けてるんですよね。でもその「これだ」って感触は、モニタの上ではどうしても掴めない。ここだけは手を抜かないでいたい工程です。
— 02 —データは正しいのに安っぽい原因
入稿の基礎を守っても「なんだか安っぽい」と感じる仕上がりがある。多くの場合、その原因はデータの不備ではなく、紙と加工の選定に判断基準がないことにある。とりあえず一番よく使われる紙、とりあえず標準の加工、という選び方をした結果だ。
原理はこうだ。同じデザイン、同じインクでも、乗る紙が変われば印象は大きく動く。つるりと光る紙は情報が均一に整って見え、ざらりと沈む紙は落ち着きと誠実さを帯びる。厚みや重さも、手に取った瞬間の「ちゃんとしている感」を左右する。ここを無自覚に選ぶと、デザインの意図と紙の声がちぐはぐになる。
だから、良い悪いの分かれ目は、紙を仕様の欄として埋めるか、表現の一部として選ぶかにある。デザインは丁寧なのに軽く見えるチラシは、たいてい紙が語る印象を計算に入れていない。逆に、紙の選び方に理由があるチラシは、内容を読む前から信頼を得ている。
— 03 —ブランドの人格から、紙を選ぶ
では、何を基準に選ぶか。ここでブランドのコアが効いてくる。触感・重さ・光り方は、言葉を読むより先に相手へ届くブランドの声だ。だから紙は、VIやブランドの人格から逆算して選ぶと、判断がぶれない。02の「安っぽさ」を避ける基準は、ここに立っている。
手順としては、まずそのブランドを数個の形容詞で言い切る。そのうえで、形容詞と紙・加工を自分の言葉で対応づけていく。たとえば「誠実で、静か」なら過度な光沢を避けて非塗工系に寄せる、「はなやかで、活気がある」なら発色の良い塗工系や箔を検討する、という具合だ。正解の一覧を暗記するのではなく、そのブランド専用の対応表を作る感覚に近い。
この対応づけがあると、紙選びが好みや慣れではなく、ブランドの判断になる。コアが定まっていないと、そもそも「静かな紙」を選ぶ理由が立たない。だからここでも、何で選ばれたいのかという軸が先にあって初めて、紙という声のトーンが決められる。
— 04 —紙を残す判断と、格を運ぶ配分
多くの接点がデジタルへ移るなか、紙をどこに残すかは経営の判断でもある。すべてを紙で刷る時代ではないが、だからこそ残す紙が担う役割は重くなる。案内の大半をデジタルに寄せるほど、あえて手渡す一枚の質が、そのブランドの本気度を語るようになる。
AIは、色や加工の候補出し、コピーの検討では役立つ。一方で、実際にその紙を手に取ったときの重さや光り方は、まだ人が確かめるしかない領域だ。候補の発想はAI、最終の触感の判断は人の手で、という分担が現実的だろう。試し刷りや紙見本を触る一手間は、省かないほうがいい。
経営に伝えるなら、「紙は減らすが、残す紙は格を運ぶ」という配分の話として提示したい。枚数を絞る代わりに、残す一枚に紙と加工の予算を寄せる。その配分が、コスト削減とブランド投資を両立させる。色の設計はカラーパレット、名刺という一枚の設計は名刺デザインの基本、そして紙選びを支える運用はVI運用と地続きで考えると、判断に一貫性が生まれる。
- 入稿の基礎はCMYK・塗り足し・解像度・特色、紙は塗工系と非塗工系
- 安っぽさの多くはデータではなく紙と加工の選定基準の不在から来る
- 紙はブランドの人格から逆算し、自分の言葉で対応表を作って選ぶ