ジャーナル · 経営2026.07.04

「企業は人なり」を、採用難の時代に読み直す

昔から言われてきた言葉だ。だが人が採れず、育たず、辞めていく今、この古びた格言はただの精神論に聞こえる。人が集まる会社と集まらない会社は、いったい何が違うのか。

目次
  1. 人が採れない、育たない、辞めていく
  2. 人は待遇ではなく、意味に集まる
  3. 「ここで働く意味」を、会社が言葉にする
  4. 「何のための会社か」を、社員に聞く

— 01 —人が採れない、育たない、辞めていく

求人を出しても応募が少ない。ようやく一人採っても、思うように育たない。育ったと思えば、数年で辞めていく。人手不足は年々深刻になり、時給や月給を上げてみても、状況は大きくは変わらない。「企業は人なり」と昔から言われても、その肝心の人が集まらないのだから、格言はどこか虚しく響く。分かってはいる、だが動かない——そんな言葉に思えてくる。

採用媒体への出費は膨らむ一方だ。人材紹介の会社にも頼る。それでも、来てほしい人ほど来てくれない。せっかく来てくれた人も、他社からより良い条件を提示されれば、あっさり移っていく。引き止めるために待遇を上げれば、今いる社員との公平さが崩れ、原資も苦しくなる。人を大切にしたいのに、その人が定着してくれない。経営の土台が人であることは、経験からよく分かっている。だが、その土台をどう固めればいいのかが分からない。条件を上げる以外の打ち手が見えない。多くの経営者が、この出口の見えない堂々巡りの中にいる。

「企業は人なり」って、人が採れない時期に聞くと精神論に思えちゃうんですよね。でも集まる会社とそうでない会社の差を見ていくと、案外この古い言葉が芯を食っている気がします。

— 02 —人は待遇ではなく、意味に集まる

なぜ人が集まらないのか。すべてを待遇の問題だと考えれば、行き着く先は条件を上げる競争だ。だが条件だけを理由に来た人は、より良い条件が現れれば、同じ理由で去っていく。ここに落とし穴がある。条件競争は、勝っても消耗し、負ければ人を失う。人が長く根を張るのは、待遇の高さそのものよりも、そこで働く意味を感じられるかどうかに拠るところが大きいからだ。

松下幸之助は『道をひらく』の中で、事業の成否を分けるのは結局のところ人であり、その人の心をどう育て、どう活かすかにあると繰り返し説いた。彼が問うたのは給与水準の高低ではなく、社員が何のために働き、何を誇りにできるのかという、もっと根の部分だった。人が集まる会社とは、条件で釣る会社ではなく、ここで働く意味を明確に供給できる会社である。同じ内容の仕事でも、それが何のためのもので、誰の役に立ち、自分がどんな会社の一員なのかが見えていれば、人は少々のことでは動かず、踏みとどまる。逆に、その意味が霞んでいれば、待遇に不満がなくても心はゆっくり離れていく。人は、意味の薄い場所から静かに離れていく。採用難の正体の少なからぬ部分は、この意味の供給不足にある。

— 03 —「ここで働く意味」を、会社が言葉にする

であれば、経営が整えるべきは条件表だけではない。この会社は誰のために、何を目指して存在するのか。ここで働くことに、どんな意味があるのか。それを会社の側がきちんと言葉にして、内にも外にも一貫して届けることだ。意味が言葉になっていれば、それに共感する人が集まってくる。そして共感して入った人ほど、多少の条件差では動かず、長く残る。入口の設計が、そのまま定着の設計になる。

この「働く意味を言葉にして、内と外へ一貫して届ける営み」を、ブランディングと呼ぶ。聞こえのいい飾りの標語をつくる話ではない。会社の存在理由を誰にでも分かる形で明文化し、採用の場面でも、日々の仕事の中でも、同じ言葉で語られる状態をつくる仕事だ。それがあって初めて、求人票は条件の羅列を超えて「ここで働く理由」を伝えられるようになり、社員は自社を誇りとともに語れるようになる。外に見せる顔と、内で感じる実感がずれていなければ、入社後の失望も減る。「企業は人なり」を現代の採用難に訳せば、人が集まる意味を、会社が設計できているかという問いになる。人は、条件で釣られるより、意味を供給できる会社に集まり、そこにとどまる。

— 04 —「何のための会社か」を、社員に聞く

まず、社員に「うちは何のための会社だと思うか」を聞いてみてほしい。答えが人によってばらつく、あるいは事業内容の説明しか返ってこないなら、働く意味がまだ言葉になっていない証拠だ。次に、その同じ問いに経営者自身が一行で答えられるかを試す。答えられるなら、その言葉を求人票の中でも、面接の場でも、日々の仕事の中でも、同じ言葉として繰り返し語り続ける。外に出す顔と、中で語る言葉を揃えておくことが、入社前の期待と入社後の実感のずれを小さくする。答えに詰まるなら、そこがまさに出発点だ。無理にひねり出す必要はない。自社に長く残ってくれている社員が、なぜ辞めずにいるのかを聞くところから始めてもいい。その理由の中に、供給できている意味の手がかりがある。人が集まり、根を張る会社への一歩は、待遇の見直しに走る前に、この意味の言語化から始まる。

◆ 経営がここから判断すべきこと
▸ あわせて読む・次の一歩
▸ 参考・引用
Highlite 編集部(2026) 企業は人なりをめぐる実務ノート
松下幸之助(1968) 道をひらく

この論点、自社ならどう動くか。もう一歩ふみ込んで考えたくなったら、いつでも。

Highlite に相談する(お問い合わせ)→ またはまず、2分のブランドチェックで現在地を測る
← ジャーナル一覧へ戻る