— 01 —中身は変わらない。変わったのは文脈だ
長野県茅野市が、水道の原水を「蓼科天然水」として売り出す。ここで起きているのは成分の改良ではなく、意味の付け替えだ。同じ水が「水道」という文脈では蛇口から出る当たり前になり、「天然水」という文脈では選んで買う価値になる。人は物そのものより、それが置かれた文脈を通して価値を判断する。
ブランディングの多くは、新しい価値をゼロから作る仕事だと誤解されている。だが実務の中心は、すでに手元にある資産を別の文脈に置き直し、価値として翻訳することにある。この事例が興味深いのは、行政という、最もブランディングから遠いと思われがちな主体が、その翻訳をやってのけた点だ。
自分たちにとっての「当たり前」ほど、価値として言葉にできていないことって、ありませんか。水道の原水が「価値ある水」になる話を読むと、うちにもまだ翻訳していない資産が眠ってそうだな、と背筋が伸びる気がします。
— 02 —と、いうことで。
この記事を読んだあなたが、まず今日できることは、自社の日常業務のうち「他社が簡単には真似できないもの」を三つ書き出してみることだ。長年の管理のしかた、地域や取引先との関係、製造ラインの癖——社内では当たり前でも、外から見れば差別化の核になりうる。その三つが、あなたの会社の翻訳前の原水だ。
「うちには語れるものがない」と感じる会社ほど、棚卸しをすると資産が出てくる。問うべきは、新しく何を作るかではなく、既にある何を捉え直せるか。ただし翻訳が効くのは、翻訳される実体があるときだけだ。書き出した三つに確かな裏づけがあるかも合わせて確かめておこう。差別化は、外から持ち込むより、内にある資産に光を当て直すことから始まる。
- 自社の「当たり前」の中に、まだ言語化されていない価値がないかを棚卸しする
- リブランドは新価値の創造より、既存資産の意味の捉え直しから始めると外しにくい
- 名前の刷新は、それを裏づける実体(品質・実績)とセットでなければ空回りする