— 01 —事例は真似る対象ではなく、抽象化して読む対象
ブランディング事例と検索する人の多くは、上手くいった会社の打ち手を持ち帰りたいと考えている。だが、他社で成功した施策をそのまま真似ても、自社で同じ結果が出るとは限らない。その打ち手は、その会社の商品・顧客・歴史・タイミングという固有の条件の上で効いている。条件が違えば、同じ施策が空回りすることも珍しくない。事例を表面のまま真似ることは、最もありがちで最も報われない使い方だ。
事例が本当に役立つのは、抽象化して読むときだ。「何をしたか」という具体の一段上に、「なぜそれが効いたのか」という原理がある。事例から取り出すべきは、目に見える施策ではなく、その裏にある考え方だ。たとえば、ある会社が特定の顧客層に絞って刺さったなら、学ぶべきは「その顧客層に絞ったこと」ではなく、「誰に向けるかを明確にすると強くなる」という原理のほうだ。原理は文脈を越えて持ち運べる。具体は持ち運べない。この違いを意識するだけで、事例の読み方が変わる。
他社の成功事例って、そのまま真似したくなっちゃうんですよね。でも「なぜ効いたか」まで戻して考えないと、自分たちの文脈ではハマらない、ということが多い気がします。
— 02 —なぜそのまま真似ると失敗するのか
そのまま真似ることが失敗しやすいのには、はっきりした理由がある。第一に、条件が違う。成功事例は、その会社が置かれた市場・競合・顧客という前提の上で成り立っている。前提が異なれば、同じ打ち手の効果も変わる。第二に、成功事例は結果から逆算して語られがちだ。実際には試行錯誤や偶然もあったはずなのに、後から見ると一本道の必然のように整理される。その整理された物語だけを真似ても、裏にあった判断は再現できない。
第三に、そもそもブランディングは自社ならではの独自性を築く営みであり、他社の真似は独自性の放棄と紙一重だ。ある会社らしさを真似ても、それは借り物のらしさにしかならない。他社の成功をなぞるほど、自社は「あの会社に似た何か」になり、本来の魅力を薄めてしまう。事例を丸ごと真似る誘惑が強いのは、それが考えずに済む楽な道だからだ。だが、その楽さこそが、事例を無力にしている。抽象化という一手間を惜しむと、学びは持ち帰れない。
— 03 —自社に転用するための抽象化の手順
事例を自社に活かすには、抽象化の手順を踏む。まず、その事例で「何が起きたか」を事実として押さえる。次に、「なぜそれが効いたのか」を問い、施策の裏にある原理を言葉にする。ここが抽象化の核心だ。見た目の派手さではなく、その会社が下した判断の筋を取り出す。多くの成功事例は、突き詰めると「誰に何を約束し、それをどう一貫させたか」という共通の骨格に行き着く。
続いて、取り出した原理を自社の文脈へ翻訳する。「この原理を自社に当てはめると、具体的には何をすることになるか」を考える。同じ原理でも、自社の顧客や商品に合わせれば、打ち手の形はまるで変わってよい。むしろ変わるべきだ。事例から借りるのは原理であって、施策の見た目ではない。最後に、翻訳した打ち手が自社の実体と噛み合っているかを点検する。原理を正しく抜き出しても、自社に約束を果たす中身がなければ絵に描いた餅になる。この三段階を踏むと、事例は真似の対象から思考の道具へ変わる。
— 04 —事例の見方と、次の一歩
良い事例の見方は、複数の事例を並べて、そこに共通する原理を探すことだ。一つの事例からは、その会社固有の要因なのか、普遍的な原理なのかを見分けにくい。だが複数を横に並べると、繰り返し現れる考え方が浮かび上がる。繰り返し現れるものほど、文脈を越えて効く原理である可能性が高い。逆に、一社だけの特殊事情は、真似ても再現しにくい。
次の一歩として、気になる事例を三つほど選び、それぞれについて「なぜ効いたのか」を一文で言葉にしてみるとよい。三つの一文に共通するものがあれば、それが自社にも持ち帰れる原理の候補になる。ここで述べたのはあくまで事例の読み方であり、確実なのは「自社が誰に何を約束したいか」だけだ。事例は、その約束を磨くための鏡として使うのが最も実りある使い方になる。
- 事例は真似る対象でなく抽象化して読む対象
- そのまま真似ると条件の違いで空回りする
- 原理を取り出し自社の文脈へ翻訳して活かす